企画

□だったら俺を惚れさせてみな
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*ディノヒバ未満
ディーノ←←←恭弥












彼は目を白黒させて、苦虫を噛み潰したような顔で固まっていた。



「お前…本気か?」



呆れるというより哀れむような瞳で、彼はそう呟く。
無理も無いだろう。
いきなり前触れも無く「あなたのことが好き」だなんて言われたら、誰だって言葉を失うはずだ。



「本気、だけど…」



今ならまだ「冗談だよ」の一言で引き戻すことができていたはず。
僕にそんなことを言われて彼も困っているわけだし、
きっとそうするべきだった。



けれど、そう考えてはいたって、
自然と僕の口から出てきたのは告白を肯定する言葉だった。



僕が、こうやって突拍子も無く彼ディーノに告白するまでに追い込まれていたのには、理由がある。
彼がとあるマフィアの女の人に告白された、と彼の部下たちから聞いてしまったからだ。
僕が彼に告白するだなんて全く考えてすらいなかったのに、
それを聞いた瞬間『嫌だ』と率直に思ったんだった。



「あなたに…そばにいてほしい」



「随分、自分勝手だな…」



「……っ」



もしいつか彼からその人と付き合っただなんて報告されても、
少しも、まったく祝ってやる気になんかなれないだろう。



もし僕に大切な兄が居たとして、
その兄に彼女ができたときの、
どこか羨ましくて心寂しい弟の心境みたいなものだろうか。
そうであってほしいと昨日の晩ひたすら考えてみたんだけど、
どうもそれは違うらしい。



知らない女の人と彼が仲良く一緒に過ごす様子を想像すると、
彼女と彼に対する嫉妬心や、
もう一緒に居ることすらできなくなるのではないかという不安感に襲われる。



それで、僕は彼のことが好きなんだ、って気持ちが結論付いてしまったんだった。



「自分勝手で、わがままなことだとか…全部わかってるよ」



鼻の奥がツンと痛い。
瞬きをしてしまえば、もう流れてしまいそうな涙を懸命に堪える。



「でも、あなたのことが好きなんだって…気付いた」



言い切るとますます視界が滲んできて、顔を逸らして誤魔化した。
いた堪れない空気、先ほどからの冷たい彼の反応。
全部が怖くて悲しくて、
我ながら情けなさすぎるが、
どうにも耐えがたい。



お互い何秒か黙ったままでいると
彼が大きなため息をついた。
そんな些細な事すらも恐ろしく感じる今の自分が、心底情けないと思う。
彼に好きだと言った時の勢いは一体何処に行ったんだろう。



「恭弥、泣いてんの?」



ため息のあと、苦笑しながら囁くように優しい声で彼が呟いた。



「泣いてなんか無いっ!」



否定したはずなのに、
涙は頬をつたいはじめている。



嗚咽でひくひくと上下する喉を落ち着かせ、
息を詰まらせながら頭の中に描く言葉を懸命に紡ぐ。



「もう…その人と付き合うって、決めた…?」



心を決めてきゅっと瞳を閉じながら問うと、
彼からは、僕の想像とは違った答えが返ってきた。



「いや、絶対ねーよ…マフィア絡みだと、裏があったりするからな、いろいろややこしいんだ」



「だったら…っ」



「俺がイタリアに帰るまで、まだ少しくらいなら時間はある」



「え…?」



「お前が俺のこと本気で好きっていうんなら、残りの時間で、俺を惚れさせてみな」



その言葉に、僕は思わず彼に抱きついてしまった。
彼が好きで好きでしかたがない。
溢れ出すこの思いは、愛しくて、切なくて。
胸をぎゅうぎゅうに締め付ける。



裾を掴んで抱きついたまま、
僕は次第に大きくなっていく自分の心臓の音を数えた。
僕の刻む鼓動と同じだけ、時間は流れていく。



彼の胸に耳をあてていると、内側から、トクン…トクン…と優しい鼓動が聴こえてきた。
いつかこの音色に包まれながら、
この人の優しいテノールで、
『好き』という言葉をちゃんと聴きたいと、思った。



「絶対に、あなたのこと堕としてみせるよ」










end



あゆさま*

お題ありがとうございました!



H21*11/24

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