ディノヒバ

□満月
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深夜。いつも煩いほど賑やかな並盛も、夜中は怖いほどに静かだ。
しんと静まりかえった部屋のカーテンをゆっくりと少しだけ捲る。
不意に見上げた空には美しく輝く丸い月。



「今夜は満月だね」



恭弥は携帯を片手に、ベランダに立っていた。



『そーなのか?こっちは曇ってて何も見えない』



こっち……。
手を伸ばしても、走っても、叫んでも、何も届かない場所。
見ているものが違う事実は胸を苦しくさせて。
今まで一緒のものを見れてきた事実を愛しく思った。



「今、何してるの…?」



『ん?恭弥のこと考えながら1人えっちっ』



「─……っ!!」



突然とんでもないことを言われ、しかもそれを聞き逃すことができなかった恭弥は驚く以外に言葉が出てこなかった。
ディーノならやりそうだとは思うが、あまりに唐突すぎて。



『ぶはっ、本気にしたか恭弥っ』



「ば、ばか…っ!」



くすくすと通話口から聞こえるディーノのからかった声に
深夜関わらず怒鳴ってしまいそうになる。
誰にも見えていなくとも、赤い顔をしているだろう自分が容易く想像できて悔しかった。



『わりぃーわりぃー、切るなよ?』



「…これ以上変なこと言い出すようなら切る」



『ま、待てっ……1人でシてたってのは冗談だけどよ………恭弥のこと考えてたのはほんと……』



そんな風に言われて、心臓が潰れそうになる恭弥。
自然と口元が綻んで、胸の鼓動が抑えきれないほど高鳴る。



『恭弥も俺のこと考えてくれてたらいいな』



「考えてるよ…ばかぁ…っ」



思いが溢れ出てきて止まらなかった。
我慢していた涙腺が切れ、一筋二筋と頬に沿って雫が落ちる。



『………あっ、満月…!』



暗い雲の隙間から、まるで2人を見守り覗くように現れた輝きをディーノは逃さなかった。



「ほんと…っ?」



『ああっ、すっげー綺麗』



恭弥は再び空を見上げる。

この月を今あなたも見てるんだ。



「そんなに遠くないよね、僕たち」



『……そーだな』



2人の見つめる先に浮かぶ満月は
心を晴らすようにとっても明るく輝いていた。









end

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