ディノヒバ

□打ち上げ花火
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闇のように深く暗い夜空に、蛍光色をした細い線が地上から伸びていく。
その光線はある程度の高さまで昇って、響き渡る大きな音とともに眩しく綺麗な大輪を咲かせた。



ひとつ、ふたつと上がっては咲き、観客たちを魅了させていく。



「うぉっ、すげーな」



「うん、多分ここからが1番綺麗に見えるんだよ、打ち上げ花火」



紺の浴衣を着こなした恭弥に連れられて神社にやってきた俺は、生まれて初めて花火を見た。
恭弥が誰にも教えたことの無いというおすすめスポットに、こうやって俺が居られるのも恭弥が俺に慣れてきたからだろうか。



「川沿いは群れててその分暑いからね、ここは涼しいし最高でしょ?」



「ああっ、ありがとな」



花火よりも恭弥の方が綺麗ってのが本音なんだけど。
こういう風物詩が大好きな恭弥のことだ、そんなこと言ったら殴られるに決まってる。



「もう少しで最後の1番綺麗なの上がるから」



「もう最後か…」



そわそわしながらその花火を待っていると、突然恭弥に手を取られた。
そしてそのまま恭弥の頬へと導かれる。



手のひらに恭弥の頬。
手のこうに恭弥の手。



この温もりは、普段俺から求めるもので、恭弥の方から触れてくることなど滅多に無い。



「恭弥…?」



一体どうしたのかと掛けた声は、少し間抜けに響いた。
空いているもう片方の手も添え、両手で恭弥の頬を包み込む。
すると、突然我に返ったらしい恭弥が慌てて俺の手を離し、後ずさった。



しかしせっかく自分から擦りよってきた可愛い恋人を逃すわけにはいかず、恭弥が後ずさった以上の距離を詰めて、頭を包み込むように抱きしめてやる。



「自分から誘っといて逃げるなよ」



「さっ、誘ってなんか…!」



「じゃあ…今のは…?」



「それは…っ



あなたが好きだから…触れたくなった」



……───バーンっ!!





恭弥の微かな声をかき消すかのように打ち上げられた、今までと比べものにならないほど綺麗な花火。
そしてすげータイミングの悪い大きな破裂の余韻音。



「……花火で聞こえなかった、もう1回頼む」



「……っ、あなたの手が冷たくて気持ちよかったから…!」



「……?そっかっ」





実は聞こえてたなんて、怒られそうだから黙っておくとして
来年の花火も、同じようにここで恭弥と見れたらいいな。



そんときには、ちゃんと好きって言ってもらうけど。









end

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