ディノヒバ

□痛いところはキスで消毒
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「恭弥が俺ーっ!?」



「煩いよ、朝っぱらから」



いつもと同じ、いつもと何も変わらない平凡な朝、というわけにはいかないみたいで。
どうやら僕は自分と同じ姿の人間が目の前に居るだけじゃなく、空想の物語とかでよく見かける、『入れ替わり』の状況に立たされているらしい。



入れ替わった相手が別人だったら落ち着いていられ無いだろうけど
相手が顔も体もみなれた恋人だったらあまり驚かないだろう。



いや、普通の人なら相手が誰だろうと驚くと思うけど…



いきなり巨大化する亀とか、いろんなところから炎を出して戦う草食動物とか…マフィアとか10年バズーカ(最近覚えた)とかが日常的に繰り出されてると、
ディーノと入れ替わった。こんなことくらいで驚いていられなくなってしまった。



「恭弥…!鏡みながら遊ぶの楽しいぜっ!」



「僕の顔で変顔しないで…」



落ち着いていられるのは彼も同じみたいだけど、
普通はどうやったら元に戻るとか考えるんじゃないんだろうか…



少しだけ心配になってきたものの
散々僕の顔をぐちゃぐちゃにして遊んでるばかの仕返しにでも、この状況を楽しんでみようと思う。



くすっ、どうなるかわかってるよね、あなたのこの体…。



『ピンポーン─…』



すっかり自分の世界へと入り込んでしまっていた僕は現実から目を反らせすぎていたみたいだ。



多分玄関の外に居るのは草壁だろう。
今日が大事な風紀委員会議だということを忘れてしまっていた。
会議は昼の1時から。
そばに置いてあった時計の針はもう2時を指していた。



「僕が出る」



「待てって恭弥!今のお前、俺だぜ?」



「…っ、じゃああなたも来て…!」



僕は、玄関の前まで勢いよく僕の姿をした彼を連れてきた。



「僕のふりして僕の代わりに謝って…!」



「おうっ」



「お願いだから僕の顔でへらへら笑わないで…!」



「きょ、恭弥の真似難しい…っ」



あ、あー、とマイクのテストみたいなことをしだす彼を余所に、ドアを開ける。



やはりそこには、しかめっ面の草壁が怒り気味に立っていた。



「委員長、無断で会議を休まれるのはどうかと…」



「ふーん、草壁…僕に説教かい?君も偉くなったもんだね、咬みころ…っ」



自分で思い止まる。
すっかり今の姿がディーノだということを忘れてしまっていた。



「きょ、恭弥…俺が何とかするから下がってろっ」



小さな掠れ声で耳打ちする彼の言われた通り後退りする。



「跳ね馬ディーノではなく委員長に用が…」



案の定、草壁に不思議に思われてしまった。
あとは僕の姿をしたディーノに任せてみるとして、ディーノの後ろから然り気無く様子を眺める。



「わぁーってるって草壁っ、僕だろ?僕っ」



「委員長…?」



「色々アッタンダヨ、悪カッタヨ」



「まあ…今回はそこまで重要な話はしませんでしたし…次から気を付けてもらえれば」



むかつく…っ、変な片言な喋り方のディーノにもむかつくけど…
草壁の僕を見下してるような態度。
本当に腹が立つ。



「恭弥…!どうした…?」



くるっと振り向いたディーノは腹を立たせた僕に気がついたのか心配そうに見つめてきた。



「どうかしたか?」



「ー…っ、あなた…僕の代わりに草壁咬み殺して…!」



「っあ…?んなことできるわけ…」



「いいからっ!」



彼は、はあ…っと息を落とすともう1度草壁の方に体を向ける。



「委員長…ちゃんと人の話を聞いてください…」



「あー…え、と…
咬みころしちゃうぞっ★」



………。



………ばか。





「な…っ、今日の委員長おかしいですっ!!」



脅えながら後退りする草壁の顔からは、いつもの僕を慕う信頼の目が消えていた。



くるっと再び振り向くディーノ。



「恭弥っ、草壁のやつ怖がってるぜっ!俺もやれば出来るんだって」



「くすっ、そうだね、ふふふふ……咬み殺す…っ!」



草壁を咬み殺した後、じっくり彼を咬み殺すことにしよう。



「恭弥…!やめ…ぐはっ!」



鞭って案外、楽しいんだね。
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