ディノヒバ

□あなたが狂わせる
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「だーれだっ!」



突然目の前が真っ暗になった。
ほんのりと香水のにおい。
におい慣れたいつもの香りに、聞きなれた優しい声、
少しだけ胸の鼓動が早くなる。



「ディーノでしょ」



ばれたか、と僕の目を覆っていた手のひらを離すと歯を見せてにかっと笑った。



「用件は?」



「ったく、冷てぇーな」



ぶつぶつ言いながら彼は、
あたかも自分の家かのように荷物を床に置き、椅子に座ってくつろぐ。



「すげーの買ってきたっ」



こんっ、と音をたててテーブルにビンのようなものが置かれる。



「お酒…?」



ピンク色帯びたガラスのビンには、草書体で綺麗に文字が書かれていた。



「桜ワインだってさっ、珍しいだろ?」



よく見てみると、ビンの底に桜の花びらが沈められている。



「うん、見たことない」



「じゃあ」



いつのまに取り出したのかテーブルには2つのグラスが並べられていた。



「一緒に飲もうぜ、恭弥」



「僕、未成年だし…お酒苦手なんだけど」



「気にすんなっ、たまになら良いんだって」



「でも…」



僕の言葉を無視して彼はグラスにワインを注ぐ。



お酒が苦手なんじゃない、桜が苦手なんだ。

きついアルコールのにおいにまざった桜の香りに、痛いくらい頭がくらくらする。
あの変な病気のせいで…



「飲まねぇーの?」



「遠慮しとくよ」



「いいからっ」



彼はワインを口に含むと、顔を近づけてきた。



「ん…っ」



ちゅっと音をたてて、
彼の湿った柔らかい唇が僕の唇へと重なる。



器用に舌を差し入れ、薄く開いた僕の口内にワインが口移しで入ってきた。
生ぬるい液は喉の奥まで流れ込んできて。

アルコールで舌がピリピリしてきた。



「んー……ふ…っ」



彼が僕の後頭部を包むように掴んだまま長くて深いキスが続く。
彼の甘い舌の味がして、桜が微かに香った。



頭がくらくらする。
これは桜のせい?

それとも、



あなたの甘いキスのせいなのかな…?








end

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