ディノヒバU
□偶然の出会いと必然の運命
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強く吹き付ける風が歩みを阻む。
生暖かくて気持ち悪い風だ。
足を進める度に体にまとわりついてきて、不愉快きまわりない。
そんなつまらない放課後。
こんな日は部屋でのんびり昼寝でもしていたいんだが……今日は生憎、校則違反を取り締まる日だ。
校門から順に校内を見回る。
下校時間も近いせいか、生徒の数も少なく、あっという間に見回りも終わりに向かっていた。
スピーカーから下校時間を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
「……よし」
僕は風紀の仕事を終え、応接室の方に体を向けて足を進めた。
今度は先ほどとは逆に、風に背中を強く押されながら歩く。
しばらく歩いていると、校内近くの廊下に人影が見えた。
少し気配を消しながら、ゆっくりとその人影へと近付いていく。
「ねぇ、君。もう下校時間……」
言葉が、つまった。
目の前の人影が姿を現す。
顔は影になっていて見えないが、少しパーマがかった金髪。
それが彼に似ていた。
少し前いきなり現れたあの人に。
「ひ、ヒバ……?すみませんっ!すぐに!すぐに帰りますっ!」
──僕の声に振り返った金髪は、彼ではなく、まったくの別人。
そして僕に驚き、やっぱり他の草食動物と同じように逃げていく。
はぁ、とため息が溢れた。
「……え」
今、僕なんでため息……?
自然と出てきたため息に驚く。
あの金髪が“あの人”ならって、ちょっと期待してた?
思い過ごしでがっかりした?
胸がドキドキと脈打つ。
それと同時に、心臓が締め付けられてるような感覚。何、これ?
胸の辺りを押さえてみる。
やっぱり……鼓動が早い。
目を瞑るとそこには……。
ディーノと名乗った男。
奇抜な外国人が、日本人より流暢に日本語を使いこなして。
軽薄そうでノリも軽くて、太陽みたいな人なのに、実は裏や闇などと呼ばれる世界の中心で生き抜く人であるとか。
単に、興味深く思った。
──ただそれだけ。
それだけのはずなのに。
ただがむしゃらにぶつかっても、彼は絶対に倒せなくて。
何度戦っても勝てなくて。
どうやっても勝てないという悔しさがいつ、どこで、何か別の思いにすり替わってしまったのか。
それは憎しみなんかじゃなくて、苦しいのに、どこかあたたかい。
いつの間にか、あの鳶色の瞳に吸い込まれそうになっていた。
金色にドキドキさせられていた。
知らないうちに、惹かれていた。