ディノヒバU

□小さな幸せ
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たまにだけど、恭弥は本当に俺のこと好きなのかって、疑問に思うときがある。



目が合えばすぐに、ところ構わず「ばか!」だの「咬み殺す!」だのひどい暴言吐いてくるし。
ただの照れ隠しだって、
特別俺が相手だからだって、
わかっていても、やっぱり。
何か物足りない気がして。
でもそれをどうやって伝えればいいんだって、ここのところずっと悩んでいた。



「なあなあ恭弥ー」



「………」



「恭弥ってばー」



「うるさい、黙ってて」



さっきからこれの繰り返し。
今日は、恭弥の風紀の見回りも俺の仕事の用事も重なって無くて、
だから放課後、いっぱいいっぱいいちゃいちゃしようって思ってたんだけど。
恭弥は帰ってそうそうエンツィオとヒバードで遊びはじめて…。
今に至る。



わがままなんて言わない。
ただ、ふたりで居るときくらい甘えられたいし、甘えてたいんだ。



「……はぁ」



俺は、恭弥に聞こえるようにわざとらしくため息を溢して、
そっと立ち上がった。
なのに恭弥は少しもこちらを見ようともしないでエンツィオの頭を撫でている。



「……恭弥さ」



「………」



「エンツィオとはいつでも遊んでいいし…だから…ちょっとは俺の相手もしてほしいんだけど」



やっとのことでそう呟くと、ようやく恭弥は俺と目を合わせた。



「……は?」



恭弥からもれるすごく呆れた声。
結構勇気出して言ってみたのに、これはかなりへこむ。



「いっ…今の忘れろよな、何か飲み物持ってくっからよ」



また冷たくあしらわれるより、
自分から引き下がった方がまだ全然いいだろう。
何事も無かったかのように振る舞い、そのままキッチンへと向かおうとすると、後ろからジーパンの裾を引っ張られた。



「な、何だよ…」



やっぱりなんか怒らせたか?
慌てて視線を落とすと、
見上げてくる恭弥は案の定少しむっとしていた。
けれどなぜか頬は赤らんでいて。
これはひょっとして期待してもいいのかな…とか。



「恭弥…?」



「こっち来て」



そのまま引っ張られ、もとのソファーへと連れ戻される。
そして、ソファーに座った恭弥は手で自分の太ももをぽんぽんと叩きはじめた。



「え……?」



何、マッサージでもしろってか?
どうにも恭弥の考えが読めない。
不思議に思い、戸惑いつつも見つめると、さっきよりも恭弥の頬は赤らんでいて、尚も膝をぽんぽんと叩き続けている。



もし、かして。



「膝まくら…っ?」



「い…いちいち言わせないで」



更に照れて俯く恭弥。
俺は喜び勇んでその太ももへとダイブした。
布越しに伝わる気持ちいぬくもりに、思わず目を瞑ってしまう。
触れているか触れていないかの微妙な具合で髪を撫でられて、くすぐったいような感覚。



睡魔に吸い込まれるように、うとうとと意識を捨てようとしていると瞼にふわりと何かが触れた。
恭弥の髪の毛?
細く様子を窺うように目を開くと、あと数センチのところまで恭弥の顔が近付いていた。
恭弥の淡いピンク色の唇は、もうあと少しで俺の唇に触れようとしていて、肌を掠める吐息がすごく気持ちいい。



そのまま俺が恭弥に見とれていると、いつの間にか目と目がばったりと合っていて。
その状況をのみ込んだ恭弥は、真っ赤になりながら急いで俺から顔を離していく。



「ね、寝たのかと思って…」



「俺が寝てたら何するつもりだった?」



「………」



お見通しだ、と言わんばかりに微笑むと、頬をぺちっと軽く叩かれてしまった。
頬に触れる恭弥の指先からも熱を感じて、それがすごく心地いい。



俺は、そっと恭弥の後頭部に手を回して自分の方へと引き寄せる。
音も無く重なった唇はやっぱりあたたかくて、何か言葉なんかじゃ表すことのできないような思いが伝わってくるような気がした。



「あなたのこと、好きだよ…っ」



「わかってる」



自惚れとかじゃない。
恭弥は口に出さなくても態度に出さなくても、ちゃんと伝えようとしてくれてんだ。



「なんか、伝わってきたからさ」



頬に触れたままの恭弥の手を握ると、小さく、本当に微かに握り返してくれた気がした。



そのぬくもりに満たされながら。
すぐ近くにあった幸せに、
俺は小さく微笑んだ。










end


Un'allodolaさまの素敵なウェブアンソロジー第2回に投稿させていただいたものです。



H21*11/3

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