ディノヒバU

□このままでいいと伝えたい
4ページ/6ページ

すごく遅くなった。
昼にイタリアを出て、日本に着いたらもうあたりは真っ暗だった。
携帯の時計に目をやると、もうすっかり夜の11時過ぎ。
さっきまで昼だったじゃねーか。
ったく…時差ボケには敵わない。



「……はぁっ」



暗い夜道を走る。
布に包まれてない、顔とか耳が…切れそうなくらい痛い。
今日が誕生日って人の周りはあったかくなる…みたいな魔法とかあっても別にいいんじゃねーか?
あ、でも恭弥も特別ぽかぽかに…



なんて、焦った頭はめちゃくちゃなことを考えだす。



こんな変なこと考えながらぼーっとしてたら、今すぐにでも滑って転けちまいそうな気がしてきた。
もう時間がねーのに。



体中が悲鳴をあげる。
横腹とか太腿とか足首とか…なんか全身の筋肉がもうやばい。
凍え死ぬかもな…なんて思いはじめたころ、やっと俺は目指していた場所に着いた。



恭弥の家。



どれくらいの間走ったんだろう。
時計を見ると11時45分。
なんとか間に合った。



ドアの前で足を止めて、かじかんだ手に白い息を吐く。
なんとか指は動きそうだ。
確かめるようにゆっくりとボタンを押して、電話をかける。



頼むから、出てくれ。



『…もしもし』



ちょうど10コール目だった。
耳もとで響く、愛しい恭弥の声。



「よかった……」



安心しすぎて全身の力がなくなったみたいだ。
足が急にがくがくと震える。



『何、どうしたの…?』



「今、恭弥…家にいる?」



「あたりまえでしょ…何時だと思ってんの?」



「ちょっと、家の外に出てみてくんねーか?」



『……何のために』



「あのさ…急にごめん…今俺恭弥んちの前にいんだ」



「はぁっ!?」



恭弥の大きな声が、電話からも目の前の家からも同時に聞こえた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ