ディノヒバU

□このままでいいと伝えたい
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結局、プレゼントを思い付かないうちに今日がきてしまった。
日付は2月4日。
変わることない彼の誕生日。
そして見つからなかったプレゼントのあては、昨日の夜必死に考えて編み出した苦肉の策。



あっという間に学校も終わり、いつの間にか放課後になった。
いつもの帰り道。
はぁ、と吐いた息は白かった。
あまりの寒さに頬や耳が切れそうなくらい痛くなる。
なんでこんなに寒いの。
僕の好きな人の誕生日くらい、もっとあったかくって過ごしやすくてもいいんじゃないかな。



って、あれ?そういえば、彼は今どこにいるんだろ…?



不覚。やっぱり僕はばかだ…。



あの人はあんなへなちょこでも、一応マフィアのボスらしい。
普通そういう人の誕生日とかって大人数でパーティーとかお祝いとかするに決まってるじゃないか。



ばかすぎ…自分が嫌になる。



勝手に、てっきり今日彼は僕と過ごすんものだと決めつけていた。
もうちょっと少し考えれば、全部分かったはずなのに。



これはひどい自惚れだ。
ひどい妄想だ。



ポケットから携帯を取り出す。
今日本は夕方の6時。
もし彼がイタリアだとしても向こうは朝の10時だ。
迷惑がかかる時間でもない。



着信履歴をうめる彼の電話番号。
僕から電話だなんて滅多にしたことなかったからか、少し躊躇う。
あとはボタンを押すだけなのに、そのまま指が、体が、石みたいに固まってしまった。



あと10秒。いや30秒。
自分自身に、ボタンを押すまでのカウントダウンを仕掛ける。
…29…28…27……。



『緑たなびくー並盛のー』



「……えっ」



僕何か変なボタンでも押した?
画面を見ると着信中の画面。
そして聞き慣れた着信音。
なんだ電話…か、それにしてもすごいタイミング。



「……なん、で…?」



着信側の名前見てさらに驚いた。
相手は、今僕が電話を掛けようとしていたはずの…。



「も、しもし」



驚きすぎて声が裏返る。



『きょっうやーっ!さて今日は一体何の日でしょーかっ』



彼の声を聞いて、何かでっかいもやもやが自分の中から出ていったんじゃないかってくらい、心がふわっと軽くなった。
電話を掛けるのにあんなに緊張してた自分は一体何だったのか。



「…誕生日…おめでとう」



『な、な、きょ…うや、恭弥…!もう一回!頼む!』



「…1回しか言わないよ」



『へへーん…言っとくが恭弥との電話内容は全部1秒たりとも抜けることなく録音してんだぜっ!』



「死ね!今すぐ全部消せ!いや、あなたが消えろ!!」



『ははっ、わりーわりー!』



口元が勝手に綻んでしまう。
口を両手で押さえるけど、ダメだ…全然言うこときかない。



何これ、何このタイミング。
嬉しい、嬉しすぎる。
彼の声を聞きたいと思った瞬間、まさかその彼から電話が掛かってくるなんて…もう奇跡としか言いようがないよね、絶対に。



さっきまで悩んでたのは何だ…?会えなくても姿が見えなくても彼と僕は繋がってるんだ。



「あなた、今イタリアだよね」



『おう、朝から誕生日パーティーだ、大人気ねーだろ?』



「ふーん、仕方ないから今日だけあなたが群れるの許してあげる」



『せんきゅー…ごめんな?そっち行けなくて』



全然平気、気にしてない。
そう思い込もうと思った。



「何謝ってるの?誕生日くらい思う存分、楽しみ…な、よっ」



平気そうな言葉を選んで、何でもないように言ってみせたつもりが、少し声が震えてる。
よりによって誕生日に、彼を不安になんかさせたくない。
気付かれませんように…。



『恭弥……?』



……気付か、れた?



「そ、それじゃ」



『あ、うん…じゃあなっ』



僕ちゃんとあの人におめでとうって、言えたよね。
それでもう僕は十分満足。



寂しいとか物足りないとか…全部僕の勘違いだ、きっと。
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