小さな恋物語
□いつつ
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「飼い主探してるのか?」
さっそく声をかけてきた男の人。
『並中』と刺繍の入った学ランを着ているから、将来僕が行くであろう並盛中学校の生徒だ。
「はい、飼ってもらえますか?」
別に尊敬もしてない人に敬語で話すのは好きじゃないけど、仔猫のためならと我慢する。
「いや…俺んちマンションだから犬猫飼えなくて…あっ、でももしよかったら学校の友だちとかに聞いといてやろうか?」
「ありがとうございますっ」
じゃあな、頑張れよ!、とその中学生は行ってしまった。
飼ってはもらえなかったけど、友だちに話してくれるということでかなりの進歩だと思う。
「どう、かなりの進歩でしょ?」
くるっと彼の方に目をやると、瞳を輝かせながら先程の中学生を見つめていた。
「何見てるの…?」
「かっこいい…っ!」
彼の口から出た突拍子も無い言葉にただただ驚かされる。
「わぉ、あの人が?」
「いや、学ラン…!」
学ランなんてどこにでもあるようなものだと思うけど…。
でも確かに、汚れ1つなく漆黒に包まれた制服は、何だか規則正しく見えてかっこいい。
「俺…日本の学ランかなり憧れてんだっ、お前も中学なったら学ランだろ?」
うん、と言いかけたが言い留まる。
「たしか並中の制服、来年度からブレザーになるらしいよ?」
そんなことをどこかで小耳に挟んだ気がして。
「えぇ…っ!?絶対に中学のお前学ラン似合うと思ったのに…」
「ほんとに…?」
「ああっ、似合いそう」
当たり前だが学ランが似合うって言われたことなんか初めてだし、そこまで言われると嬉しくなる。
「いっそブレザーとか無視して学ラン着て中学行けよっ」
「そうする…っ」
「じょ、冗談だってっ」
早く中学生になりたいけど、あと何年も待たないといけないと思うともどかしい。
中学生になったらずっと卒業せずに好きな学年でいようとか、そんなことも考えてみた。