コードギアス
□その日には1日遅れの、
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『健康』
『卒業後も上手くやっていけますように』
『今年こそ!』
『世界が平和になりますように』
短冊と同じく、色とりどりの願いが、風にふかれて笹とともに揺れている。
クラブハウスの近くに流れる小川に、その笹は立てられていた。
その笹の方を前にして、シャーリーはまだ悩んでいた。
生徒会はもう解散している。
シャーリーは最終的に決めることができず、『部屋に帰って書く』と言ったのだ。
最初から、思っている願いは一つ。
だけど、それがみんなにも見られるかと思うと、どうしても書くことができなかった。
何か、上手い隠し方はないだろうか。
そればかりを考えているのだった。
「シャーリー?」
自室に帰る前に一度下に降りていたルルーシュは、外に見慣れた人影をみとめて驚いた。
もう間もなく日付が変わろうという時間である。
その前に短冊を掛けに来たのだろうと推測したルルーシュは、あることに思い当たり、急いで自室に駆け戻った。
自室の机、その引き出しの手前側に丁寧に置いてあった小袋を取り出し、シャーリーの元に向かった。
「これでよしっ!」
ようやく上手い方法を思い付いたシャーリーはそれをさらさらと短冊に書き、小さなガッツポーズを作った。
隠しているし、まあ少しずれちゃった気もするけど、これはこれで間違いなく思っている願いだから、納得のいく出来である。
さてそれじゃあ早速笹に掛けようかと笹に近付くと、
「シャーリー」
聞き慣れた、大好きな声が耳に届いた。
驚いた。心臓が飛び跳ねるとはこのことだと思った。
「……ルル?」
こんな時間にどうしてと聞こうとして、ルルーシュがクラブハウスの方から来たことに気づき、聞くのをやめた。
ルルーシュは仄かに笑って言う。
「やっと書けたのか。悩みすぎじゃないか?」
まあ、でも、とルルーシュは続けた。
「確かに、願いはみんな、数え切れないくらい抱えているものだからな……」
そう言って星空を見上げる。
ああなんで、なんでこういうときルルーシュは切なそうな目をするんだろう。
なんでそんなに綺麗な顔で、遠くを見ているんだろう。
近いはずの私達じゃなくて、遙か遠くを。
「ルル」
思わず、話しかけていた。
「私はね、実はあんまりたくさんのことを願いたかったんじゃないの」
素直なことを言ったものの、本当のことを言うこともできず、一歩遠回しな言い方で、本心を言う。
「だけどちょっと大きな願いだったから、上手くまとめるのに時間かかっちゃって……」
こう言うと尚更照れるような気がした。
なんかすごく変なこと言ってる気がして、そして実際一番願いの対象である人を目の前にした状況で。
でも、ルルーシュは優しかった。
優しく笑って、こう言ってくれた。
「シャーリーは、優しいんだな」
「……優しいのは、ルルだよ」
星が一つ、空を滑った。
空を滑って、夜空に融けた。
「もう、短冊は笹にかけた?」
「あ、忘れてた」
いそいそと短冊を笹に付けて、笹にまた一つ色を加える。
シャーリーが戻ってくると同時にふと気づいて時計を見たルルーシュが複雑な顔をした。
「……もう日付変わってるけど」
それを聞いたシャーリーは空を見上げた。
天の川はまだ、そこにあった。
「……大丈夫、よね」
織姫と彦星が願いを叶えてくれるというのなら、まだ、織姫と彦星が見ているから大丈夫だろう。
用も済んだし、と名残惜しいのを隠してシャーリーは帰ろうとした。すると、
「あ、シャーリー、ちょっと待って」
ルルーシュの方から引き留められた。
シャーリーが振り向くと、ルルーシュは小袋を差し出した。
なんだろうと思って小袋をしげしげと見る。
「……今日誕生日だろう?」
その小袋はシンプルながら美しいリボンがかけられていて、明らかにプレゼント用。
シャーリーの瞳がいっぱいに輝く。
自分の好きな人が自分の誕生日を覚えてくれてて、しかも前日までにプレゼントを用意してくれていたという。
嬉しさも絶頂だ。
早く中身が見たい衝動にかられる。
「開けても、いい?」
ルルーシュの首肯を確認し、シャーリーは袋を開けた。
中に入っていたのは、星形の飾りがついたペンダントと揃いのブレスレット。そして
「これ、ルルが作ったの?」
優しい色の折り鶴が一つ。
「あ、ああ」
願いが叶うって聞いてね、と続け、その瞳はシャーリーをとらえる。
「シャーリーには、幸せになってほしいかな、と思って」
短冊は揺れる。弱い風に、時折強い風に吹かれて。
しかし最後に追加された色だけは、ずっと翻ることはなかった。
その分の代償もあった。
それはまた、翻ることがなかった故か。
最後の色が描いた願いは
『私の大好きな人達が、ずっとみんな一緒に、幸せでいられますように』
七夕に1日遅れた誕生日。
願いを1つかけられる日に、間に合わなかった日。
その日の意味するところは、
届かなかった願い。