拍手歪み小説。ちょっと壊れた話のため苦手な方はback。
大丈夫な方はスクロール。












鮮やかな赤はまどろみの色。

人の思考をどろどろに溶かしてしまいそうな毒々しい赤は、白雪姫の唇でさえも赤く染め上げた。
比例した肌の白さが際立つ、危険な赤い果実。


白雪姫へと差し出される右手は拒むことなど許しはしなかった。








ゆさゆさ、ゆさゆさ。
肩を揺すっても頬を撫でても唇にキスをしても、二度と目覚めない身体と知っているのに…どうしても止められない。

「壊れてしまっても…死んでしまっても、傍にいてくれると約束しましたよね…?」

眠る姿が綺麗過ぎて、瞼に残る涙を見ては錯覚を起こす。赤い血溜まりさえもなくまだ生きているのではないか、なんて妄想を浮かばせてはこうして呟く自分がいた。

有り得ない。その自信は確かだった。彼女は今、ここで、僕の為に僕の作った毒入り果実を頬張ったのだから。
小さな口を精一杯開いて、震える手を押し止め笑った瞬間を忘れられはしない。


「…愚かですね…僕も、君も。」


愛とは一言では計り知れないと言う。1番遠かった平穏をくれた君はいつの間にか、僕の要望を聞き答えてくれるようになっていた。
些細な可愛い約束事から醜い嫉妬から生まれた無理矢理な誓約まで…数えたら幾つとは言い切れない数に膨らんでいて。

高望み、という言葉すら忘れた頃に僕は取り返しのつかない一言を呟いていた。


「君を僕だけのものにしたいんです。見せたくもない…」

「それは…一生?」

「…ええ。」

「誰にも?」

「誰にも。」


ぱちくりと目を見開いた彼女からの次の言葉が怖かった。
純粋無垢な眼差しが怖かった。

いつしかこの全てが僕を見限るのではないか…。予想に反した問い掛けを繰り返す彼女に、胸の内は熱く跡形もないくらいに煮えたぎって目の前が歪んで見える。


「……分かったよ、弁慶さん。」


だからだろうか、その言葉の発信人が彼女だと気付くのに数秒を要したのは。





彼女のためだけの薬を調合する。鼻に抜ける強く馨しい香が部屋に広がった。
僕の隣で静かに出来上がるのを待つ彼女が、何を考えているのかなんてわからない。

けれど、酷く穏やかな微笑みで、まるでその時を待ち望んでいたかのように僕に擦り寄る。
添えられた手のある腕の感触でさえ愛しく感じるのに…これからの行為が似ても似つかない、取り返しのつかない愛の形であることさえももはやどうでもよくなった。


全ては毒に侵された身体で僕の意思を汲み取ってもらうため。
独り占めしたいという愚かにも程がある欲求を満たすために。




「…最期、なんだね…」

「大丈夫、一緒にいますよ。心配しないで下さい…。」


「本当?」と笑うこの顔も、口元に添えた小さな手も、この果実ひとつ…否、一口で動かなくなる。
手渡された林檎をしばし見つめて「綺麗、」なんて言葉を漏らす。毒々しさしか感じられない赤色を綺麗と言えるのは、後にも先にも彼女しかいないのだろう。


「弁慶さん、私、貴方のものだよ…これからも、ずっと。」



無意識に震える手に握られた林檎はその言葉を境に、丸い形が欠ける。

みずみずしい林檎のかじられる音と、喉を通る音。


お伽話では詰まらせただけのそれも通り過ぎて、苦しまず倒れていく小さな身体を抱き寄せ赤く染まった唇に口付けを落とす。
落ちていく瞼がぴくりと動き、微笑むように甲を描いたのはきっと気のせいじゃない。


「おやすみなさい、僕の愛しい君…」



手に入れたのは君の器と満足感だけ。
それだけでも構わない、だって、誰にも奪われずに済むのだから。

―――けれど。


「けれど…君がいるから僕の永遠もある。寂しいですよね一人は」


床に転がる赤い林檎。
籠に残っていた林檎をひとつ、その手に取って。

時を止めた姫の隣で、泣くように笑ってみせた王子は同じ末路を辿る。


所詮、愛に狂えばこうなることを分かっていたように2つの林檎が無残に床へ転がっていた。






+++++

第3弾は白雪姫捏造。
片方だけなんて好きじゃないので←(笑)
理由はただそれだけでつくられたお話でした^^

閲覧ありがとうございました。
次回は未定ですがお楽しみに!


お伽話に染められて、



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