Get Backers

□lost memory
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「…ごめんなさい…」

その言葉に感情は込められていなかった。
全てが否定された気分に陥る。

「っ…嘘だ!!!」
「!?…美堂くっ…!!」

落胆のまま家に着き、項垂れた蛮にとどめを刺す一言だった。
気がつけば、ベッドの上で赤屍を押し倒していた。

「もうやめろ…」

赤屍の手首を掴む手に力は入らない。
絶望による脱力感が蛮の全身を巡っていた。

「もう…いいだろ…??」

赤屍の頬に落ちる雫。

「この惨めな姿がテメェらの望むものだろ??…だから、もう…」

大体の見当はつく。
呪術師が動く理由は、魔女の血を引く自分以外に考えられない。

命を狙われてもおかしくない状況は、以前から変わらないことだ。

「蔵人を…戻せ…っ!!」

叫び声が響いた後、赤屍の表情が変化した。
口の形が鈍く笑っている。
その笑みは蔑み、嘲笑うものだった。


「蔵人っ…!!?」


瞬間に奪われる蛮の唇。
普段の口付けとは異なる、荒っぽい脅迫じみた口付けであることに、蛮は些かの恐怖を感じていた。
啄むように唇を包まれ、強制的に舌を差し込んでくる。

「っふ…んっ…!!」

拒否権はない。
入ってきた舌は丹念に歯列を辿り、次に縮こまる舌を捉えた。
巧妙に動く舌に翻弄され、開いた口の間隙からだらしなく唾液が流れ落ちる。

『…違う』

ほどかれた拘束に安堵し、身体が欲する酸素を取り入れる。

『違います…美堂くん…』

いつの間にか体位は逆転、蛮の背は清潔なシーツについていた。
自ら話すことがなかった赤屍の言葉に耳を傾ける。

「なん…っ!!ぐはっ!!?」
『私が望むのは、アナタの生き血…』

蛮の腹部に鈍痛が走った。
続けざまに赤屍の拳が埋められ、蛮は痛みに身を捩る。
内臓が破裂したのだろうか、咳き込むと同時に吐血し、白いシーツは赤に侵された。

「う…あっ…」
『簡単に血を吐くんですね…。やはり、私に手は出せませんか??』
「くっ…!!」
『実に愉快だ…もう依然の私ではないのに…。全くの別人なんですよ??』
「ちがっ…う…お前は、蔵人…だっ…」
『…馬鹿馬鹿しい』

蛮のシャツに手がかかると、赤屍はそれを一気に引き裂く。
縫われた糸を千切る音と、床に飛び散る釦の音が耳に残る。

『私は呪術師。アナタが憎むべき人間。アナタが知っている赤屍蔵人ではない』

透き通る白さの肌に触れて、赤屍は再度言い聞かせるように言葉を発した。



この男が言っていることは間違いではない。

瞳の色、表情、動作、そして声音までも違っているのが分かる。
いつも側にいるから、よく分かる。


でも、蛮にとって赤屍は赤屍だった。

昨夜の赤屍の言葉………
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