Get Backers

□lost memory
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「蔵人??」

呼び掛けても中から返事はない。
しかし玄関に目線をずらすと、確かに赤屍の革靴がある。
いない筈はない。
不審に思いながら蛮は靴を脱ぎ、家に上がって廊下を進む。
閉められたリビングのドアノブに手をかけ、開くとそこにはソファーに座っている赤屍の後ろ姿があった。


「…なんだよ…いるじゃねぇか」

驚きつつ、蛮は買い物袋をキッチンに重たそうな音をだして置いた。

「仕事もう終わったのかよ、早くねぇか??」

問いかけながら、蛮は店で調達してきた具材を一つ一つカウンターに出していくが、赤屍からの返答はない。

「蔵人??」
「………」
「オイ!!聞いてンのかよ!!」

ことごとく無視され続け、ついに蛮の苛々は爆発した。
手に持ったワインが割れてしまいそうなくらい強い力で置き、赤屍のもとへ向かう。

「さっきからシカトしやがって、何のつもりだ!!」

正面に回り、赤屍の胸ぐらを思いっきり掴んで引き寄せる。
読んでいたらしき雑誌が赤屍の手から滑り落ちた。
乱暴な行為に特に反応することなく、虚ろな目が蛮に向けられた。

生気が感じられない。
何時にも増して表情がない。

その異変に気付き、赤屍のシャツから蛮の手が離される。



「どうした…??具合でも悪いのか??」
「…誰??」
「は??」
「アナタは…誰です??」



時間が止まったような気がした

「な、何言ってンだよ…。そんな冗談笑えねぇぜ…??」

鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。

「…誰…??」



赤屍の顔はとても嘘を吐いているようには見えなかった。
知らない者を見る冷ややかな視線が、何より痛かった。

「オレだよ…美堂蛮サマだろ??」

信じたくない
愛しい人の記憶から抹消される恐怖と哀しみ



いやだ。



「オレが…分からねぇ…のか??」



こんなの



「はい…。私とどういった関係にある方でしょうか…??」



信じない―――――――



「っ!?…なんです?!」

一瞬唇を噛みしめ、強さを取り戻した瞳で睨み、蛮は赤屍の手首を掴んで部屋から外へと引きずり出す。

「いいから来い!!忘れられてたまるかっ…!!」

僅かな望みを託して、最も信頼できる人の元へ抵抗する赤屍を引っ張り、歩みを進めた。
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