【 Story2 】

□SCENE4
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医務室に行くと、初老の医者が眉間に皺を寄せながら開いた傷口を再び塞ぐ。

「いくら腹立ってからって、何も怪我している右手で殴る事ないだろう。」
同時に運び込まれた男達の様子を見ながらそう言う。

「手加減してやったんだよ。」

「それで傷を広げてれば、元も子もない。完治するまでギプスで固定しとくかい?」

「遠慮する。」

「今度傷を広げたらギプスだからね。ついでに採血しとくかい。前回から一ヶ月経過している。いつもは400ccだが、血の気の多い今日は出血大サービスで600ccなんてどうだい?」

「医者が性質の悪い冗談言うな。帰って来てから一睡もしてないんだ。そんなに血抜いたら貧血で倒れる。いつも通りでいい。」

カーレスが左腕をまくると、医者が用意したのは400ccの献血用の注射器。
医者は採血とは言ったが、単なる献血だった。

献血が済むとほぼ同時にノックも無く医務室のドアが開き、司令部の制服を着た男が一人入って来る。

「あぁ、一つ言い忘れてたけど、お前さんが来ていることは先に」
「仕事サボって喧嘩とは何事ですか!仕事に戻って頂きますよ。失礼しました。」

男は医者が言い終える前にカーレスに向かってそう怒鳴りつけると、怪我をしていない左手を引っ張りながら、カーレスを無理矢理引っ張っていく。
去り際に、医者に礼を言う辺りは抜け目がない。

「サボってねーよ。ちょっと休憩と腹ごしらえしただけだ。それに先に手を出してきたのは奴等だ。しつこいから制裁加えただけだよ。」

「言い訳はする暇あったら仕事して下さい。」

「血抜いたばっかりでフラフラしてるんだから、もっと優しく出来ねーのか!」

「それだけ元気だったら問題ありませんよ。」

「俺まだ夕飯食ってねーし、帰って来てから一睡もしてねーんだ。労わるとかそーゆー気持ち無いのかよ!」

「サボるから仕事が溜まるんです。」

二人の言い合う声はそこで聞こえなくなる。
エレベーターに乗ったのだろう。



「やれやれ。騒々しいのがいなくなったわ。」
医者は診察に使った道具を片付けながら、苦笑いを浮かべていた。

「お前さんに怪我はないかい?」

「俺は、ありません。」

「あの子とは随分親しかったようだが、始めて見るが・・・」

「先日の任務が一緒でした。」

「そうか。あの子、ここに来た時はまだ五歳だったが、大人になっても性格は変わらんなぁ。
昔からああでな。もちろんあんな容姿な事もあって、トラブルは絶えなかった。」
医者は昔話を始めたが、緋珠もそれを黙って聞いていた。

「最初こそ、ここで医療に携わっていたがよく患者を殴ってた。それで異動したんだが、その先でもトラブル続きだったが、実力だけはあってな、15歳で異例の司令部入りとなったそれが当時ますます周りからひがまれて度々大喧嘩した事もあったなぁ。あれから8年。さーっぱり大人しくならんとは、困ったもんだ。」
そう言って医者は楽しそうに笑っていたが、緋珠は今の話からカーレスの年齢を聞き驚く。

「すみません。今、俺の聞き違い出なければ、8年。って言いましたよね?」

「言い間違えてはいないぞ。」

「それじゃ今23歳って事ですか?」

「あぁ。見えないだろう。年はとっても性格は子供のままだからなぁ。」

「そう、ですか。」
本人を目の前にして絶対に言えないが、緋珠は自分より年下だと思っていたカーレスが、一つとは言え自分よりも年上だと言う事実に愕然とした。

「そうじゃ、お前さん夕飯食べ損ねたな。ここなら持って来てもらえるがどうする?」

「お心遣いありがとうございます。ですがモールならまだ開いてますので、モールで済ませます。」

「そうか。体調子悪いところがあったらすぐに来なさい。」

「はい。失礼しました。」
緋珠は邪魔にならないよう医者の話が終わると早々に診察を後にした。


外部とほとんど変わらぬ生活をできるとは言え、基本的に最低限の衣食住は確保されている。
制服は支給され、三食も決められた場所で食べる分についてはまかなわれている。
それを超える範囲のものは全て自費。
彼等の報酬は、夕食一食分ぐらい自費で払っても有り余るだけ得ている。
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