【 Story2 】

□SCENE1
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腕時計のアラームの音で目を覚ました緋珠は、目の前の光景に目を疑った。

自分の隣で寝ているのは銀髪の美少女。
それも『絶世』という形容詞がつくような。

 ―何故?―

と考えているうちに、自分がアラームで目を覚ましたのは早朝訓練だ。
と云う事を思い出しベッドから飛び起きた。

訓練の時間に遅れれば処罰の対象となる。

ここが自分の部屋ではない。と云う事実や、未だ寝ている少女の事など、すっかり頭から離れ、服を着たまま寝たのだと言う事を確認すると、ベッド脇のサイドテーブルに置いてあったIDカードを手に、荒々しくドアを開ける。

開けた先は、廊下ではなく大きなデスクと応接セットが並んだ部屋。

一瞬、頭の中が真っ白になるが、応接セットの奥に見えるドアを目掛けて走り出し、これまた荒々しくドアを開けた。
今度こそ廊下だ。

緋珠は、人気の全く無い白い無機質な廊下を出口を探して必死で走った。
訓練までには十分な時間があるが、ここがどこか分からない以上、ゆっくりはしていられない。
訓練場までは遠いことも考えられる。



ようやくゲートが見つかると、IDカードをゲートの認証モニターにかざす。

だが、ゲートが開く代わりに認証モニターにはエラーの表示。
そこに示された警告文。

『このIDではこの先のゲートを開くことは出来ません。』

「出ることも出来ないのかよ!」

緋珠は思わず舌打ちをした。
通常であれば、入るのは厳しくても、出るのにはIDなど関係ないはずだった。
だいたい、この基地でゲートから出るのにIDが必要だと聞いたこともない。

試しにもう一度IDカードをかざそうとしたその時。

「そこのゲート。出るのにもIDが必要なんだよねー。」

と、背後から声を掛けられた。
思わず振り返ると、そこに居たのは自分の隣で寝ていた銀髪の少女。

少し眠そうなその声は女性にしては低めだが、男性にしては高め。
それでもこの声域は女性には有り得ない。

少女、否、少年が自分のIDカードをかざすとゲートが開く。
そのままゲート脇にある、エレベーターの認証モニターにもIDカードをかざすと
エレベーターが作動した。

「これを降りて通路を左に行くと出口があるから。そこからは右の森を抜けると訓練場へ抜けれる。
でも、ここからちょっと遠いから急がないと遅刻だよ。」

少年に促されるままエレベーターに乗ると、少年は丁寧にも訓練場までの道のりを教えてくれた。
複雑に入り組んでいる基地内の内部通路を通るより、一度外に出てから真っ直ぐ向かう方が手っ取り早いらしい。

「ありがとうございます。」

緋珠がそう礼を述べるとエレベーターのドアが閉まり動き出した。
行き先は一階。自分の居た階は最上階だったらしい。
急ぎたくてもエレベーターの速度に従うしかない状況では、少し落ち着いたのか、自然と頭が冷静に働く。

その間、少年から教えてもらったルートを頭の中で反芻する。
急がないと間に合わない。と言ってたことから、今の最優先事項は間違えずに訓練場まで辿り着くこと。

訓練場には開始時間5分前に到着した。
いつもは10分前に到着する緋珠が遅かったことに、同僚達からは、珍しいな。と声を掛けられた。
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