【 Story2 】

□SCENE3
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思いがけずに自分に向かって飛んできた分厚い扉を、中に居た男は人質に取っていたルフトハンザ将軍を一時手放し、その拳で以って叩き割った。

カーレスに一瞬遅れて室内に飛び込んだ緋珠はその光景を目にして、一瞬背筋に悪寒が走った。
頑丈な分厚い木製の扉をいとも簡単に拳で以って壊すなど、人間離れの力技は自身を『強化人間』と言うだけある。
あの力で殴られれば即死も免れない。

しかしそんな事に感心している場合ではない。
すぐにルフトハンザ将軍の護衛をしていたギル班長の安否を確認する。

男がルフトハンザ将軍を手放した瞬間を見逃さずに救出したのを見て安堵した。

「ほう。この扉を破るなんて、お前、脱走強化兵か?」
男は自らに降りかかる木の破片を振り払いながら、カーレスにそう尋ねる。

「あんたらの言う強化兵じゃなきゃこの扉を破れないなら、クロイツェン帝国兵は随分と軟弱揃いだな。」

「何?俺をその辺の雑魚と一緒にするなよ。『強化人間』の実力、思い知らせてやる。
俺達『強化人間』は、人工的に筋力を普通の人間の三倍に上げることで、圧倒的な破壊力とスピードを手に入れた、言わば殺人マシーン。」

男はそこまで言うと、カーレスではなくルフトハンザ将軍を抱えたギル班長に飛び掛る。
その速さはとても生身の人間とは思えない。

しかし男のその動きを阻止したのはカーレスだった。
カーレスの拳が見事に男の横っ腹に入り、カーレスより二周り大きな巨体が横に飛ぶ。
床に叩きつけられるその瞬間に男は身を捩り、無様に転げるのを防いだ。

「どこ見てる。お前の相手はこっちだ。」

「何言ってるんですか!こいつ人間の域を超えてます!!無茶ですよ!!」

カーレスの言葉に緋珠は慌てて静止するが、それに対しカーレスは逆に緋珠を制する。

「お前は黙ってろ。」

「ガキは物分りいい方が可愛げあるぜ。そっちの兄ちゃんの方が、よっぽど物分りいいみたいだぜ?」
男は立ち上がりながらそう言った。

「ぶっとばされた奴が偉そうに説教か?」
カーレスは余裕の態度を崩さずにそう返す。

「面白い。お前から殺ってやるよ。」
男はターゲットのカーレスに決めると、男がカーレスに飛び掛った。

しかし、早いはずの男の攻撃がカーレスに当たる事はない。
それどころか男の攻撃を避けながらも攻撃を仕掛け、一進一退の攻防が繰り広げられる。
この場で銃火器を使用しないのは、周りに被害が及ぶことへの懸念があるからだ。
重要人物のルフトハンザ将軍がいる以上、慎重に行動しなければならなかった。
カーレスは男を挑発する事で、男の冷静な判断力を奪う事に成功した。

その頃ギルは、邪魔にならないように静かにルフトハンザ将軍を連れて部屋を出ていた。
しかし、部屋を出たところで安全が確保されたわけではない。
通信機で部下達に召集をかける。
現状の最優先事項は残りの内通者捜しではない。ルフトハンザ将軍の身の安全。
特に『強化人間』などと言う化け物じみた人間がいる以上、戦力の分散は全滅の危険性がある。
彼等に対抗するには戦力を集める事が必要不可欠だった。
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