「キス」 〜雨由伊編〜





「……………っ……」


隆登のキスは長い。


いや、キスの平均時間が何秒なのか何分なのかは知らないけど、でも、隆登のキスはすごく長いと思う。


わたしと隆登は、普段甘い雰囲気になったりする事は少ない。


二人とも淡白な所為でもあり、それ以上に隆登が照れ屋な所為でもある。


でも、というべきか、だから、というべきか、いったん火がついたら、なんというか……すごい。


くちびる同士が触れ合うと、なかなか離してくれない。
わたしは途中で苦しくて、酸素が欲しくなって頭を反らそうとするんだけど、隆登は許してくれなくて(隆登は苦しくないのかな?)。


今も、そう。


一度くちづけたら、普段の淡白で照れ屋な部分はどこにいったんだ?ってくらい豹変する。


だけど、そんな長い長いキスにも、終わりはある。


くちびるが離れる寸前に、隆登はわたしのくちびるをぺろりと舐める。
それが、「キスは終わり」の合図。

 
くちびるが解放されたわたしは、ちゃんと呼吸出来る事に安心する反面、なんだか残念なような名残惜しいような複雑な気持ちになる。


キスされた事よりも、そんな気持ちになった事が恥ずかしくて、隆登の胸に顔を埋めた。


すると、頭の上から小さく笑う気配が伝わってきて、それからすぐに、隆登が髪を撫でてくれた。


「…………」


隆登が小声で何かを言ったけど、聞こえなかった。顔を上げると、わたしの髪を指に絡ませながらもう一度言った。


「由伊、髪伸ばしてるのか?」


「え?別に……」


急になんだろう?
わたしの髪は今は背中の真ん中ぐらいの長さだ。
長いと言えば長いだろう。


……でも、そんな事よりも、隆登がそんな事を言うのに驚いた。
正直、隆登はわたしの容姿に関心があるとは思えなかったから。


気合いを入れておしゃれしても、ちょっと失敗だったかな?って時も、特に何か感想を述べた事もなかったし。
それって彼氏としてどうよ?って思っちゃうぐらいに本当に興味なさそうだったから。

 
「隆登、髪長いの嫌い?」


そう尋ねると、彼はいや、と言って目を逸らした。


「長い方が……好きかな」


あれ?
顔が赤くなってる。
……ここ、照れドコロなんだ……。


なんだかおかしくてくすくす笑うと、隆登は「なんだよ」と、ちょっと怒った声を出した。照れ隠しに怒ったフリをしているのはバレバレなんだけど。


「じゃあ……もっと伸ばそうかな。そしたら……」


「ん?」


「わたしの事、もっと好きになってくれる?」


「!!!!!」


今度こそ、耳まで真っ赤になった隆登に、わたしは背伸びをして、もう一度くちづけた。












 






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