べとべとさんさきへおこし

□卒業と入学
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あたし、北川真由美は今日小学校を卒業する。

ウチの学校では卒業式に、来月から通う中学校の制服を着てくるのが当たり前になっている。

あたしも勿論、この間買ったばかりの中学校の制服を着た。

そして、あたしの好きなあの人も―…




学生服姿の彼は、いつもよりも大人っぽく見えてあたしはドキドキした。

彼はそんなあたしには気付かずに男友達とじゃれあっている。

…なんとかして彼と話したいあたしはチラチラと彼の様子をうかがっていた。

そして、彼が一人になった時を狙って話しかけた。

「遠野くん」

あたしが呼ぶと、彼はこちらを振り返った。

「あ、あの…そ、卒業おめでとう!」

「…っていうか、自分も卒業じゃん」

即座に突っ込まれた。

「う、うん、そうなんだけど…あの、会えなくなったら寂しいなー…って思って…」

「おれたちのクラス全員同じ中学校だろ?」

また突っ込まれた。

「あ、うん…そうだね」

しどろもどろになるあたしを彼は不思議そうに見ている。

あたしはありったけの勇気を出して彼に言った。

「あのっ…遠野くん!第2ボタン下さい!」

「え…?やだよ。これから毎日着なきゃならないのに」

あっさり断られた。

しまった…小学校の卒業式で言うべきではなかった…。

あたしは激しく後悔した。

「………」

今気付いたけど、遠野くんは何かそわそわしている。時間を気にしてるみたいだ。

「ごめん、おれ、約束があるから帰るよ」

そう言った遠野くんを見て、あたしはピンときた。

「……灯子さんと?」

遠野くんの顔が急に真っ赤になる。

灯子さんというのは遠野くんの親戚のお姉さんのことだ。

遠野くんはどうやら、この灯子さんが好きらしい。

「い、いいだろ、別に誰と約束してても」

遠野くんは慌てふためいて、じゃあな、と言って走り出した。

「あ、遠野く……」

もっと話したかったのに、行ってしまった。

…と思ったら、5メートルぐらいのところで止まって、振り向いた。

そして

「また来月、入学式でな!」

と手を振った。

思いがけなかった彼の行動に、あたしは返事をしそびれた。

…といっても、彼はあたしの反応なんて待たずに走って行っちゃったけど。

彼の後ろ姿を見ながら、あたしはため息をついた。

今はこれでいいや。

でも、中学校を卒業する頃には、今よりももっともっとイイ女になって、遠野くんを振り向かせてやるんだから!

新たな目標ができたあたしは、遠野くんが走って行った方に向かってガッツポーズをした。

見てなさいよ、遠野勇太!

3年後には必ず、あたしのトリコにしてやるから!














3年後、勇太が真由美のトリコになったかどうかは定かではない。


 
 
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