短編
□翠月
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ざざん……ざざ……ん……。
開け放たれた窓から、波の音が部屋の中へ入ってくる。
その日は、目を通さなければならない書類が多く、仕事を終えるともう夜中近かった。
すぐに休んでも良かったのだが、気分転換をしたくなったわたしは、海岸まで散歩に出掛ける事にした。
月の綺麗な宵だ。
このまま眠ってしまうのはもったいない。
人のいない夜の海岸は、寂しさを感じさせると同時に、どこか神秘的なイメージも持っている。
そんな雰囲気が好きで、わたしはよく夜の海岸に来るのだ。
誰もいない砂浜をさくさくと歩く。
聞こえる音は、波の音と風の音、そして砂浜を歩く自分の足音だけだ。
……しかし。
そう遠くはない場所から、バシャン!という大きな音が聞こえた。そしてすぐにバシャバシャという音が、絶えず、しかし不規則に聞こえてきた。
これはまさか、……誰かが溺れている!?
わたしは、水音のする方へ急いだ。
音は岩場の方から聞こえる。そちらへ急ぐと、水しぶきが見えた。
やはり、誰かが溺れている!
わたしは慌てて上着を脱ぎ捨てて、海へ飛び込んだ。
暗くてよくは見えないが、白い腕と白い顔が時折浮かんでは消えた。
バシャバシャという音は、少しずつ弱まりつつあった。
……まずい。力つきそうなのか?
その溺れている人物は、わたしがそこまで辿り着く頃には、殆ど水をかく力が残ってないようだった。
「……っ、大丈夫かッ!」
半分意識を失っているらしいその人物の腕を掴んで、自分の方へ引き寄せた。
そして、その身体を抱え込んで、陸の方へと引き返した。