短編
□河童のガータロ
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子どもの名前は、遠野勇平と言った。
おらに会った事は、誰にも言っちゃなんねえ、と言うと、勇平は神妙に頷いた。
「うん。広まったら、ガータロ、見世物小屋に連れてかれちゃうもんな。おれ、誰にも言わないよ」
おらは勇平に薬を塗ってやり、その日は別れた。
次の日、勇平はまた川までやってきた。
「ガータロ!ガータロ!」
おらが、川からあがって姿を見せると、勇平はこっちこっちと手まねきした。
「ガータロ、昨日のお礼にこれ持ってきた!いっしょに食べよう!」
と、勇平が差し出したのは、キュウリだった。
「うちの畑のキュウリだよ。本当はもっといっぱいもって来たかったけど、とうちゃんに見つかって2本しか採って来れなかった。だから、1本ずつな」
おらがキュウリを受けとると、勇平は川辺に座ってポリポリとキュウリを食べ始めた。
「? ガータロ食べないのか?キュウリきらいだった?」
キュウリを持ったまま突っ立っているおらを見て、勇平が不思議そうに尋ねてきた。
「いんや……キュウリは大好物だ。ありがとな」
おらも、勇平の隣に座ってキュウリを食べた。
「うまい?」
勇平がおらの顔をのぞきこんだ。
「うん……うまい」
おらが答えると、勇平はそりゃあ嬉しそうににっこり笑った。
キュウリはうまかった。……一人で食べるよりも、ずっと。