べとべとさんさきへおこし
□勇太くんの中学生日記セカンドシーズン
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『
8/13 18:30〜
町内花火大会開催!
』
そう書かれた張り紙を、勇太はじっと見ていた。
じっと見て、ぐるぐる悩んでいた。
(花火……誘ってみようかな……いや、断られるかな……人たくさんいるし……でも、一緒に見たいな……)
たっぷり5分はその場で悩んでいた。
答えの出せないまま突っ立っていると突然、
「勇ちゃん、何やってんの?」
と声をかけられた。
思わずビクッとしてふりかえると、そこに立っていたのは、幼なじみの雨宮莉乃だった。
「……なんだ、莉乃か。びっくりした」
「びっくりしたって……ちょっと声かけただけじゃない」
莉乃はあきれたように言って、それから、勇太が見ていたものに目を移した。
「花火大会かぁ……勇ちゃん、行くの?」
「え……?えっと……」
言えない。
気になる女の子を誘っちゃおうかどうしようか悩んでるなんて、言えない。
一瞬口ごもった勇太の様子を莉乃は見逃さなかった。
「ん?もしかして、誰かを誘うつもりだった?……トウコさんとか」
「……っ!!!!!?」
物凄い勢いで顔が赤くなるのを感じた。
どうしてわかったんだ?しかもなんで莉乃が灯子の事知ってるんだ?もしかしてこいつ、妖怪「さとり」かッ!?……と、一瞬のうちに考えた。
どう考えても肯定としか取れない勇太の反応に、莉乃はにっこりと笑った。
「やっぱりそうなんだ」
「な、なななんで、莉乃が灯子の事知ってるんだよ!」
異様にどもりながら莉乃に向かって言った。
本当に、どうして莉乃が灯子の事を知っているのだろう?
「だって、入学式の日にまゆが言ってたじゃない」
「あ、ああ……そっか」
確か、そんな事もあった。
「ねえ、みんなで花火見に行こっか?」
「え?」
「まゆも名倉くんも灯子さんもみんな誘って、みんなで行こうよ」
意外な提案に驚いた。
「でも……真由美や和也はともかく、灯子は来てくれるかどうか……」
ニンゲンがたくさんいるところはあまり好きではないのう、とか言って断られそうだ。
「そんなの、誘ってみなくちゃわかんないよ。勇ちゃん、灯子さんと花火見たくないの?」
「そりゃ、見たいけど……あ、いやその」
思わず口を滑らせてしまった。
……ものすごく巧みな誘導尋問だ。
「じゃあ決まりね!まゆと名倉くんはわたしが誘っておくから。決まったら、電話してね!」
「あ、莉乃!」
「じゃあね〜!」
言うだけ言って、莉乃は行ってしまった。
「……エライ事になった」
残された勇太は、ぽつりと呟いた。