クエスト・ゼロ
□その手で、触れて
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彼の手は、いつも優しくわたしを愛撫する。
その、大きくてあたたかい手で触れられるだけで、どんな不安も飛んでいってしまう。
わたしは彼のことを愛していた。
彼も、わたしのことを愛してくれていた。
だけど、ある日彼は知らない男をわたしの前に連れてきた。
彼がその男に何か言うと、男はわたしに近づいてきて、いきなりわたしの胸を鷲掴みにした。
痛いッ!と言って、わたしが暴れると、男は慌てて手を放した。
わたしがこんなに怯えているのに、彼は笑いながらこちらを見ているだけだ。
どうして?
どうして助けてくれないの?
フィル……!
「……ダメだよ、ライ。そんな乱暴にしたら、牛が怯えちゃうよ」
「お、おう。……乳搾りって難しいんだなあ。フィル、毎日やってるなんてスゴいな」
「本業だからね」
「フィルのとこの牛乳美味しいもんな。改めて、感謝するよ」
「毎日撫でてやって、ちゃんと愛してあげれば、美味しい牛乳を出してくれるんだよ、牛は」
「へぇ〜」
勇者(自称)、初めて乳搾りを体験する!の巻
……でした。