クエスト・ゼロ

□銀の月と金の星、そして小さな空色
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「父さん、どうしてうちには母さんがいないんだ?」

小さい頃、ライはよく父にこう尋ねた。

月の輝きのような銀の髪をした父は、その度に困ったように笑う。

そして………………。




















「ライ!お前はまだわたしを母親だと認識していないのか!」

夜空に光る星色の金髪の母は、その度に烈火の如く怒った。

「だって!母さんはフィルの母さんや村のおばさんたちと違って、言葉遣いが男みたいじゃないか!」

ライがそう言うと、母はうっ、と一瞬つまった。これもいつもの事だ。

「だからこれは……小さい頃からの癖で……」

そして、いつもとは違う事を言った。

「……そう、お前の寝小便が治らないみたいなものだ」

今度はライが言葉につまる番だった。

「さっ、最近はしてないだろ!」

顔を真っ赤にして言うと、母はふふんと笑った。

「嘘を吐くな。昨日もやらかしていただろう。父さんに泣きついて一緒に布団を干していたじゃないか」

母の言葉に驚き、急いで父を振り返ると、父は「言ってない言ってない」とかぶりを降った。
 
「父さんが言わなくても、母さんにはお見通しなんだ。なにしろわたしはお前の母親なんだからな」

言い返せないライの額をつついて、母はどうだと胸を張った。

助けを求めて父を見ると、父はやはり困ったように笑うだけだった。
この父は、口ではとても母にかなわないのだ。

「だって……だって……ニナが言うんだ。ライのおかあさんはおとうさんみたいな話し方をするのね、って。だからおれ……」

ニナは隣に住んでる女の子だ。

「おれ……ウチは母さんが居なくて、父さんが二人いるって、言ったんだ」

ライの言葉に父も母も目を丸くした。

数秒の沈黙の後、大爆笑したのは父だった。

「いや、いやいやいや。父さんが二人だったらライは生まれてないよ」

涙を流しながら笑う父を母はじろりと睨んで、ライの両頬をむにーっと引っ張った。

「い、いひゃい、いひゃいよ、はーはん」

「お前は〜、誰の乳を飲んでここまで大きくなったと思ってるんだ。しかも2歳になっても乳離れ出来なかったくせに〜」
 
「いひゃいっへの!ほっへがひぎれる〜」

なんとか母の手から逃れて、父の背中に避難する。すると父が小さな声で言った。

「ライ……そろそろ謝った方がいいと思うよ。母さんを本気で怒らせると、大変な事に……」

母が再びじろりと父を睨んだので、父は口をつぐんだ。

母は、ライに目線を合わせてかがみこんだ。
そしてにっこりと笑ってこう言った。

「そう……ライは母さんに他の女の人みたいな言葉遣いをしてほしいのね?」

突然言葉遣いの変わった母に、ライだけでなく父も目を剥いた。

「わかったわ。これからはこんな風に話す事にするわね。それなら、ライのお友達も何も言わないわよね」

ライと父は顔を見合わせた。そして声を揃えて言った。

「「気持ち悪い……」」

「…………お前たち二人とも、明日の朝食は抜きだから、そのつもりでいろ」




















結局、ライは母は母だと認め、友達に訂正することになった。

「フィル、ニナ……こないだ言った、ウチには父さん二人いるって話だけど……やっぱり片方は母さんだったよ」

その話を聞いたニナは

「えっ!?じゃああの銀色の髪の背の高い人の方がおかあさんだったの?」

と驚いた。

ライが家に帰ってその話をすると、それはそれでラプティス家では一悶着あったらしい。











おしまい





 

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