クエスト・ゼロ
□クエスト・ゼロ
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第一章 旅立ち
旅立ちを決意した勇者(自称)ライは仲間捜しを始めました。
しかしここは平和なポトスの村。
村の人口の50%ぐらいは農夫と主婦で占められています。
あとは子どもが40%、残り10%が老人です。
冒険に出てもおかしくないような職業の人は皆無なのです。
…が。
ライはひとりだけ心当たりがありました。
本業は酪農家だけど、独学で魔法を勉強している幼なじみがいるのです。
ライはその幼なじみの家を訪ねる事にしました。
「フィル、いるか?」
その幼なじみは、牛舎で牛の乳搾りをしていました。
入ってきたライに気付くと、彼は顔を上げて微笑みました。
「やあライ、今日はどんな妄言を吐きにきたんだい?」
…彼のこの台詞は別に悪意が有るわけではありません。
その証拠にライは特に気を悪くした様子もありません。
まあ、彼は単にバカなだけかもですが。
「おれ、魔王を倒しに旅に出るからさ、フィル一緒にいこうぜ」
電波がにじみでているうえに、やたら軽い誘いです。
まるで、ゲーセン一緒にいこうぜ、ぐらいの気軽さです。
フィルは答えました。
「うん、いいよ」
こっちも負けず劣らず軽く応じます。
かくして、勇者(自称)ライと酪農家兼魔法使いのフィルは魔法討伐の旅に出ることになりました。
旅立ちの日、村の人たちがライたちを見送りに来てくれました。
その中の一人、村長が前に進み出て、ライに一振りの剣を渡しました。
「ライよ、この剣を持っていくのじゃ」
村長はやけに重苦しい口調で言いました。
「これは…?」
剣を受け取り、ライは尋ねました。
「わしの家に代々伝わる宝刀…ロングソードじゃ」
たいそうな言葉のわりには100ゴールドぐらいで買えそうな武器です。
しかし、丸腰のライは喜びました。
この剣がないと素手で戦う武闘家になってしまうところです。
「ありがとう村長…おれ、絶対に魔王を倒して世界に平和を取り戻すよ」
別に、世界は今のままでも平和なんですけどね。
「うむ、気をつけてゆくのじゃぞ。ライ、フィル」
こうして、村人たちに見送られながら、ポトスの村から二人の少年が旅立ちました。
…魔王が存在するのは、ライの脳内でだけなのですが…。