第五章

□閑話、永倉新八 其の九
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本当は生き残った者たちが全て集結次第江戸へ向かうつもりだったのだが、隊士たちの憔悴ぶりは見るに明らかで。 


僅かでも休息を取った方が良いだろうという判断し、出発は二刻後の夜半となった。 


「…本当に、随分と減っちまったな」 


泥の様に眠る隊士たちの姿を見て、左之がぽつりと零した。 


この場所に到着してまず愕然とした。 


想像以上にここに至った隊士の数が少なかったのだ。 


大勢があの戦とも呼べない場所で死んでいったのは勿論。 


あの大劣勢を目の前にそのまま逃げ出した者も多いのだろう。 


「どうなっちまうんだろうな、これから…」 


「江戸に戻って、近藤さんや土方さんたちと合流して…また何処かの負け戦に放り込まれるのかもな」 


「おい新八」 


「事実だろ?…戦う気の無ぇ大将の元じゃどんな戦だって端から負け戦だ。何度やっても結果は同じだろうよ」 


「……」 


左之は俺の事を諌めたそうな顔をしたものの、実際には何も言ってはこなかった。 


こいつだって目の前で多くの部下を亡くし続けて、俺と同じような感想を抱いていたっておかしくはない。 


「なぁ左之…」 


「なんだよ」 


「……お前も感じてんじゃねぇか?もう限界だって」 


「…それは」 


「俺はもう限界だ」 


「っ!?」 


左之が驚きの表情を向ける。 


しかし俺は構わずに続ける。 


「これ以上無駄死にする戦には出たくねぇ。だが戦う事を止める訳にはいかねぇ。…それなら俺が進むべき道は一つだ」 


「新八…」 


「江戸に戻り次第近藤さんたちには話を付ける。…お前はどうする?」 


「んなもん決まってんだろうが。今更何お伺いを立ててんだよ」 


左之の間髪入れない同意に俺の心が僅かに軽くなった。 


「ありがとよ」 


「おう」 


互いの拳を突き付け合えば、自然に笑みが零れた。 


「まぁ俺の事は良いんだけどよ。……昴の事はどうするつもりだ?」 


「勿論連れてくさ」 


俺のその答えに左之は面食らったように目を見開く。 


しかし次の瞬間には堪えられなくなったように薄い笑みを浮かべた。 


「妬けるねぇ…」 


「ん?」 


「俺にはどうしたいか聞いた癖に、昴の事は本人お構いなしに連れてくってか」 


「……」 


「お〜暑い暑い。今は夏だったか?」 


左之があからさまにわざとらしく手で顔を仰ぎ始めた。 


一体何の事かと一瞬訳が分からなかったが、すぐにその意味を理解して全力で否定する。 


「ま、待て待て左之!お前何か凄ぇ勘違いしてるみたいだけどな、別にそう言う意味だけであいつを連れてくって言ってる訳じゃなくてだなっ」 


「あぁはいはい」 


「だ…っから、お前はっ」 


「あ〜もう煩ぇよ。他の奴らが起きちまうだろうが。…俺も暫く休ませてもらうぜ」


そう言って左之はしっしとまるで猫でも追い払うかのように俺に手を振って。 


そして槍を抱えたまま頭を垂れた。 


その自由気ままとも思える行動に俺は何の反論も出来ないまま、俺はのろのろと立ち上がり歩き出す。 


…おそらくまた一人で居るだろう、あいつの元へと。  



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