第三章

□明かされる、序
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いつからだろう?




私は一体いつから忘れてしまっていたんだろう?




いつか終わりがくる、なんて






そんな当たり前のことを…


















伊東一派が新選組を離隊し、御陵衛士が結成されてから早くも三月が経ち。


季節は夏を迎えていた。


昼日中よりも今くらいの夕方の当番に当たることは幸運だったが、それでも暑いものは暑い。


一体いつの間にこんなに暑さが長引くようになったのか…。


それは冗談でもなんでもなく、本当に気が付かない内に変わっていた季節の変化だった。


そんな季節のうつろいを感じる暇もないほどに、私たちはあの日以来忙しい日々を送っていたからだ。


平助さんと斎藤さんという組長格が抜けた事への埋め合わせもそうなのだけど…。


…沖田さんの体調は春以来悪くなる一方だった。


それまでも咳き込むことは度々あったが、最近のそれは今までのものとは全然違うように見えた。


苦しそうに胸の辺りを押さえ痛みに耐えるような表情を浮かべることも度々だ。


そして一旦熱が出ればずるずると微熱を引きずるようにもなった。


明らかな症状の悪化。


そんな体調不良の原因を沖田さんは未だ風邪だと偽っている…。


「……」


ふと頭上から欠伸をかみ殺す音が聞こえた。


見上げると、まさに永倉さんが口元に手を当てて目を細めた所だった。



「…悪い」



「いえ…」


永倉さんは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。


けれどその笑顔にでさえ確実に疲労の色が滲んでいた。


…幹部が抜けた穴埋めの為の隊務に加え、永倉さんはその剣の腕を買われて最近では体調の優れない沖田さんに代わって一番組の新人隊士たちに稽古をつける任にも当たっている。


本人曰く、面倒な仕事のほとんどは島田さんに投げているし自分は主に体を動かしているだけだから言うほど苦でもない…ということだったが。


永倉さんの顔を見る限りはそうとは思えない…。



「あの…私で出来ることならどれだけだって手伝いますから。なんでも言って下さい」



「…生意気言ってんなよ、お前にはもう十分仕事回してるだろうが」



こつりと頭を小突かれた。



「でも…」



「それ以上お前に何か任せてぶっ倒れられたりでもされたらそっちのが困る」



…狡い。


そんな風に心配してくれているみたいに言われたら、これ以上喰ってかかることも出来やしない。


俯きながら唇を尖らせていると、いつものように永倉さんの掌が私の頭に触れた。



「俺なら大丈夫だから、そんなに心配してくれるな」



ぽんぽんと宥めるように私の頭を撫でてきた永倉さん。


それは決して特別な行いではないし、今までも散々されてきたことなのに…。


胸が変にどきどきとして、顔が少しだけ熱くなった。


それを悟られたくなくて赤くなっているであろう顔を隠すように俯いた。



「心配すんなって。その内総司も元気になるし、…平助や斎藤だって戻ってくかもしれねぇ。そうなりゃその時には今までの仕事倍にして返してやりゃあいい」



ちらりと目だけで永倉さんの顔を見上げる。


彼は笑って言っていた。


冗談なのか本気なのかは分からない。


けど…、永倉さんの笑顔は晴れやかなものだったから。



「はい…」


私は彼の笑顔に応えるように、俯きながらも頷いた。



「ま…、一番組の新人たちもやっと形になってきたから楽になってはきてるんだが。……祇園祭には間に合いそうにねぇな」



「そういえば…もうひと月もしない内にそんな時期になりますね」



「…今年も山鉾見物は無理そうだな」



「ですね…」 


この忙しい最中に、ただでさえ忙しくなる祭り時に休みが回ってくるとは到底考えられない。


それはなんとなく予期していた事だから、少し残念に思いながらも仕方ない事だと納得している。


それに…。



「いいじゃないですか」



「ん?」



「また来年見に行けばいいんですから」



隣を歩いていた永倉さんが急に足を止めた。


どうしたのかと思って振り返る。




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