第一章
□出逢いの時、二
1ページ/3ページ
詮議の後、私は再び元の部屋に返された。
手首の縄は解かれたものの、昨日の夜までは確かに腰に差していた刀がそこにはない。
そして、部屋の前には見張り役の人が一人。
「悪い話じゃねぇと思うんだけどなぁ」
先ほど、私を新撰組隊士にと推してくれた人だ。
締め切られた障子越し、ため息混じりに聞こえてきたのはそんな残念そうな声だった。
「あぁ、そういや」
何かを思い出したように、ぱっと声が明るくなる。
「さっきも思ったけど、お前って妙に礼儀正しいな」
「…父が厳しい人だったので、躾は嫌というほどに」
「ははぁ、なるほど」
納得したように、影が頷いた。
「・・・さっきは、悪かったな。急に」
「え?」
「急にあんな話されて、混乱したろ?すまなかった」
・・・少し、意外だった。
先ほどからの大雑把すぎる仕種や言動で、この人はそういう人だと思っていたから。
周りを省みないような人だと。
「ここの外には帰る家も、帰りを待つか家族も居るだろうにな」
でも、それは誤解だったらしい。
この人は、実際にはとても気をまわせる人だ。
「・・・大丈夫です」
「ん?」
「帰る家も両親も。私にはありませんから」
障子の向こうで、息を詰まらせたのを感じた。
けれど私は怯まずに続ける。
「さっき、すぐに答えられなかったのは。迷いがあったから」
「・・・迷い?」
.