第一章

□出逢いの時、二
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詮議の後、私は再び元の部屋に返された。

手首の縄は解かれたものの、昨日の夜までは確かに腰に差していた刀がそこにはない。

そして、部屋の前には見張り役の人が一人。


「悪い話じゃねぇと思うんだけどなぁ」


先ほど、私を新撰組隊士にと推してくれた人だ。

締め切られた障子越し、ため息混じりに聞こえてきたのはそんな残念そうな声だった。


「あぁ、そういや」


何かを思い出したように、ぱっと声が明るくなる。


「さっきも思ったけど、お前って妙に礼儀正しいな」


「…父が厳しい人だったので、躾は嫌というほどに」


「ははぁ、なるほど」


納得したように、影が頷いた。


「・・・さっきは、悪かったな。急に」


「え?」


「急にあんな話されて、混乱したろ?すまなかった」


・・・少し、意外だった。

先ほどからの大雑把すぎる仕種や言動で、この人はそういう人だと思っていたから。

周りを省みないような人だと。


「ここの外には帰る家も、帰りを待つか家族も居るだろうにな」


でも、それは誤解だったらしい。

この人は、実際にはとても気をまわせる人だ。


「・・・大丈夫です」


「ん?」


「帰る家も両親も。私にはありませんから」


障子の向こうで、息を詰まらせたのを感じた。

けれど私は怯まずに続ける。


「さっき、すぐに答えられなかったのは。迷いがあったから」


「・・・迷い?」






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