テイルズ(TOV、TOS中心)小説置き場

□雨マタハ雷、ノチニ晴レ (TOS)
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灰色の空が広がり、雨の降りしきる暗い、暗い森
そんなあたしの前に現れた、はじめてみた魔物。
ひとりで無力な幼いあたしの前に立ち塞がって、助けてくれたのは、




―――――――――赤い、紅い・・・







          【雨マタハ雷、ノチニ晴レ】






「しいな?・・・しいなー」

あたしの名を呼ぶ声に目を開ければ、そこには天井が広がっていた。暗い森は、もう無い。

「起きた?しいな、おはよう!」
「・・・あ、ああ・・・おはよう」

頭が回らない。繰り返し脳裏を駆け巡るのは、さっきの夢。

「・・・また、この夢か・・・」

ため息をつくと、横にいたコレットが不安そうに首をかしげた。

「夢?」
「いや、何でもないよ、コレット」
「?…そっか。そだ、まだゆっくり休んでて、だいじょぶだよ」
「え、…でも…」
「今日はね、リーガルさんが会社に呼び出されちゃって、夕方まで帰ってこないの」
「リーガルが・・・?」
「うん。だから今日は一日、お休みって事になったんだ。アルテスタさんも良いって言ってくれたし」

ここは、素直に甘えていいものなのだろうか。
コレットの顔を見ても、彼女はだいじょぶ、だいじょぶと明るく笑うだけである。
この子が言うだいじょぶ、を聞くと本当に大丈夫な気がしてくる。

ふと、時計を見るともう朝というより昼だった。

「・・・あっちゃー・・・寝すぎた」
「そうね、寝すぎは肌に悪いわよ」

いきなりの一言をかましながら、リフィルが入ってきた。

「わ、悪かったね・・・おはよう」
「はい、おはよう」

そう返すと、本を片手に持ち満足気に去っていった。
あたしはあんたの生徒ではないんだけど…っていうか、何しにきた…。

「ごめんね、しいな、よく寝てたから・・・」
「いや、いいよいいよ」

申し訳なさそうにするコレットを励まし、部屋を出る。

「しいな、おはよう!」
「おはようしいな。」
「ああ、おはよ。すまないね」
「大丈夫だよ、ロイドだってさっき起きたから」
「おいジーニアス、バラすなよ!」
「おぉ〜お目覚めですか眠り姫ぇ〜」
「黙りなアホ神子!」

へらへらと近付いてきたアホ神子に、朝一番の一発を入れてやった。










その日は各自好き勝手に過ごしていた。

ロイドは武器の手入れをしながら、アルテスタと話していて。
ジーニアスは仲良くなったミトスとにこにこ話してて、プレセアはじっとタバサを眺めている。
コレットはずっとタバサに向かって話しかけ、リフィルは本に読みふけっていた。
アホ神子はみんなにちょっかいをかけ回っていたが、いつの間にか静かにもくもくと剣を磨いている。
いつも五月蝿いのに、一旦静かになるとずっと静かでいるんだなあ、これが。

あたしはやる事もないし、アホ神子にちょっかい出されぬよう、静かに荷物を整理していた。
ふと、札を数えていた手を止める。

「あ、…」
「どうした?しいな」

ふと漏らした声に、近くにいたロイドが聞き返す。

「ん、札の数が少ないから、ミズホの里で補給しに行こうと思ってねぇ」
「今から行くの?しいな」
「パパッと行って来ちゃうよ。する事もないし」
「そうか…付き合おうか?」
「いや、いいよ、一人で大丈夫さ」

よいしょ、と立ち上がるとコレットやジーニアスが駆け寄ってきた。

「気をつけてね、しいな」
「いってらっしゃい」
「ああ、もし暗くなったら、あっちで一泊するから」


そう言い残して、あたしは里に向かうためガオアキラの森を目指した。






はず、だったのだが。






「…あ〜、しくじったねぇ…」

来るべき時を間違えたというのだろうか。
もともと良くはなかった天気が、今になって最悪の状況になってしまった。
辺りは暗くなり、自分が何処にいるかもわからない。
どうせならさっさと帰りたいのだが、ここはガオアキラの森。迷いの森だ。下手すれば永遠に抜けられない。
雨があまり吹き込まない影を見つけ、天候が回復するのを待つことにした。




「・・・しっかし、寒いねぇ」


肌寒さを感じながら、一向に収まろうとしない天気をしいなは眺めていた。
止まない雨と頭上を響く雷に不安を募らせていく。
いくらトラウマであったヴォルトとの契約を果たしても、雷は今でも怖いものである。




それに、自分は、あのヴォルトの事件のみで、雷が怖かったわけではない。







「こんな空を見ていると、あの頃を思い出すねぇ…」





灰色の雷雲が広がり、
雨降りしきり雷が鳴り響いた日、




あたしは、この森に捨てられた。









もちろん幼かったから、自分を捨てた親の顔など覚えていない。
けれどこの森に一人にされた時の恐怖は、よく覚えている。

一人で、
寂しくて、
悲しくて、
寒くて、
不安で、
怖くて―――――

そして頭領に拾われたとき、すごく安心したのを、何度も夢に見るほど覚えている。
雨降りしきる中、雷の音に怯え、暖かい頭領に抱きかかえられる。




でも、その思い出には、いつも 赤い影がチラついていた。


それは、人のようにも思えるが、まったく思い出せない。
この影の正体は何なんだろう。悪い意味ではなかった気はする。
というか、そもそも、








小さかったあたしは、ひとりで森を抜けることが出来たのか






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