ku-a、旋律編。
□空に溶ける想い
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青々と広がる、空を見つめる。
その先にあるのは、未だ嘗て見たことのない世界が広がり続けている。
何もかもが、未知数で。
また何もかもが、白紙である場所。
そこに、散らばった幾つもの旋律の欠片はある。
「……ルナ、お願いだから無茶だけはしないでね」
「スピカもな。危ないと感じたらすぐに引き返せよ?俺守り切れないんだから」
「わかってるよ、大丈夫。……必ず、向こうでも会おうね」
「りょーかい。…必ず会えるよ、きっと会える」
握りしめた手は、旅立つことを名残惜しいと告げているようで。
引き合うように額を寄せ温もりを確かめあえば、もう二度とその温もりに出会えないのではないかと思えてくる。
常に傍らにいた存在。
されど、常に背を向けていた存在。
引き合うようで、重なり合わない存在。
それが、彼ら双子に課せられた力の宿命。
常に、光のように輝いているようでされど影の存在であろうとする、ルミナルカ。
常に、影であろうとするようでされど光り続けている存在の、ストピラルカ。
太陽と月のような存在である二人は、それでも互いに互いを失わないように引き合い続けていた。
それが、宿命をもかき消す、もう一つの力の正体。
けれどそれら総てが、定かになっているわけでもない。実際のところ、それも未知数なのだ。
「…空想世界にいられるのも、これで最後なんだ…」
ぽつり、と。
片割れは紡ぐ。
そこにあるようで、けれど存在すらしない“空想世界”。
総てが思い通りになる世界でもあれば、自由の利かない世界でもある、云わば人が作り出した世界。
その世界で生まれ、そしてそこを旅立っていく。
それが、空想世界で生まれた者の運命でもある。これは、ここに存在したときから決まっている掟。
再び戻ることも、ない。
「結構住みやすい場所だったのにな、ちょっと寂しくなるな」
「うん…友達も仲間も、誰ひとりとしていないけど…それでもいい場所だった」
生まれた意味も、その両親も。
何一つ持たず、けれど兄弟として生まれた二人は、ただ片割れがそこにいるだけで幸せだった。
無垢で、無機質で、総てが無いに等しい場所に生まれ、そして離れていく。
ここが故郷と言えばそうなるのだろう。
けれど、故郷だなんてさらりと告げられるほど、ここは有名な場所でも存在する場所でもない。
自分たちが知っていて、されど自分たちしか知らない場所だから。
「――俺たちが向かう世界に、何が起こるのかわからない。それでも、旋律の欠片を探し出す意味がある」
「…うん。目指す場所も、向かう場所も違うのかもしれない。でも僕らは、ずっと一緒だ」
どんなときも。
また、何があっても。
「…スピ、元気でな」
「……ルナもね。いつか会えることを、祈ってる」
最後の、されど最初の温もりを忘れぬように。
互いの存在を、互いに残すように。
二人はしばし身を寄せ合い、最後の、そして最初の別れを紡いだ。
『“LUPINUSの名のもとに、与えられた旋律を完成させることをここに誓う”』
同時にそう紡ぎ、手を握ったまま二人はその地を蹴り上げ、空へと消えた。
それが、“空想旋律”の始まりである―――…
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