新哀・新志・コ哀小説

□翼の折れた、天使。
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もう、何年…経ったかな。

柔らかな笑顔、仕草、匂い、声…。

その全てに、魅了されるようになってから…。


お前の瞳に、俺が映らないのであれば…その景色を灰色に汚してやりたい。
俺だけの元に舞い降りれない翼なら…その羽根をもぎ取ってしまいたい。


そんな風に思うようになって…
この想いを心に仕舞い込んで…
本当に。
もう、何年経ったのだろうーー…。





『翼の折れた、天使。』





新一に戻れないと知り。絶望したあの日から…
俺は、中学生になっていた。

人生をやり直すのも悪くない…そう心に言い聞かせながら…生きてきたように思う。

そんな事を考えながら、サッカーボールを蹴っていると…突如、アイツが座り込んだのが目に入った。

今は体育の授業中で、男子はサッカー、女子はソフトボールだった。


(ーー…チッ…!)

試合の最中だから、駆け寄れない。

苛々しながらボールを蹴っていると…
クラスメイト達が灰原を支えるのが見えた。


「…灰原さん、大丈夫!?」


どうやら足を挫いたらしく、痛みで顔を歪めながら…アイツは、足を押さえていた。

昨日からあまり寝ていなかったし、 疲労が祟ったのだろうと…俺は思った。

灰原は、俺の為に、今も薬の研究をしている。
どんなに抑止しても…アイツは決してやめようとしなかった。



俺は、容易くゴールを決めると…光彦に目を向けた。

「…光彦!交代、な。」

「…え、ええ!?ちょっ、コナンく…」

驚く光彦をよそに…俺は、灰原の元へと掛け寄った。

少しだけ…庇護選手に似ている担任が、灰原を保健室へと運ぼうとしたけれど…
触られたくなくて、俺が運ぶと申し出た。


「…江戸川…くん…?」

「…ほら、行くぞ。」

驚いた灰原を担ぐと…俺は、保健室へと急いだ。

背後の方で、クラスメイト達が騒いでいたけど…そんなのは無視した。



「…だいたい毎日無理するから、こんな事になるんだ。」

「……江戸川くん。」

「…本当におめーは、俺の言う事も聞かねぇし、世話が焼ける…」

「…江戸川くん!!!!」

その大きな声にハッとすると…
俺は、担いでいる灰原に目を向けた。


「…あ?何だよ?怪我人は大人しくしていろ。」

「だから。ここ、もう保健室だし…いい加減下ろしてくれる?もう一人で大丈夫だから。」

あ、と。
俺はいつの間にか着いていた保健室のドアを見据えた。


「…どーせ先生いねぇし、俺が手当てしてやるよ。」

「…ええっ!!?い、いいわよ!!」

「…遠慮すんなって。」


嫌がる灰原を、半ば強引に保健室に引き入れると…俺はベッドの上に灰原を座らせた。


「…足、見せてみな?」

ジャージの裾をあげ、靴下を脱がせると…白く透き通った肌が現れる。

そっと…俺が足首を動かすと、灰原は、先程と同じように痛みで顔を歪ませた。

「…大丈夫か?軽い捻挫だな…湿布貼ってやっから動くなよ…」

慣れた手付きで湿布を貼ると…クスッと灰原が笑った。

「……?」

「…何か。優しくされると…変。」

「……どう言う意味だ。いつもは優しくねぇみたいな言い方しやがって…」

「…だって。」

淡く淡く、笑う。
その笑みに…俺の心の中に、どろりとしたどす黒い感情が湧き上がった。


シバリツケテ…
ダレニモミラレナイヨウニ、シタイーー…。


「…んな顔すっと…襲っちまうぞ。」

え、と。
動揺しながら、俺の言葉を聞き返したと同時に…灰原の身体をベッドへと押し倒した。


「…っ!!!?江戸川くっ…」

「…おっと。足、動かさない方がいいぜ?」

吐息がかかる、距離。
俺は、灰原の太ももを触ると…ジャージを脱がせようと腰部に手を当てた。

「…っ…や、やめっ…」

灰原の表情が強張る。
それでも…抑止できない。


「…ジャージ…色気が無いから、脱いじまえよ。」

「…待って!!こ、こんな所で…嫌よっ…」

「…なら何処でだったらいいんだよ?」


唇まで、あと、数センチ。

だけど。
寸での所で、俺は理性を保つと、灰原から離れた。


「…??????」

体勢を起こした灰原が、何故離れたの?と言わんばかりに俺を見つめる。


「…足。怪我してたら、できねーだろ。」

「……っはあ?!!あ、あなた本当に…こんな所で?!」

思い切り赤面した灰原を見据えながら…俺は、そのまま壁へと押しやった。


「……っ…ちょっ…」


「…いいか?俺はいつでも用意は出来てんだ。だから、油断すんじゃねーぞ?」


「……っっ!!!!!」


絶句した灰原にニヤリと笑うと…俺は保健室を後にした。




ーー…誰にも奪われたくない。
俺だけに、その笑顔を見せて欲しい。

どうか。
何処にも行かないで。

ずっとずっと…
俺だけの…翼の折れた天使でいてーー…。



END.


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