厳しめ小説

□のち、恋をする。
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「…とうちゃんってさー?絶対、哀ちゃんの事好きだったよなぁ〜?」
「…はぁ??」
いきなり。
この江戸川コナンに瓜二つの容姿を持つ工藤新一の息子は、いきなり何を言い出すのかと…私は呆れながら晴希を見据えた。
「あのね、どっからどうなって、そんな発想になった訳?」
「どっからって…うーん…何となく?」
目の前のチョコレートパフェを嬉しそうにつつきながら…そう悪びれもなく物を言う。
似なくていい所が、彼に似ている気がした。
買い物に出たら、偶然…熟帰りの工藤晴希と出くわした。
最初こそ、気づかぬ振りをしていたが…やがて、哀ちゃーん!と。満面の笑みで近づいて来られたら、逃げる訳にもいかない。
そして…こうして、カフェでパフェをねだられるハメになったという訳なのだが…。
「…あなたのお父さんと私は、何の関係もなかったのよ?現に、歳だって離れているでしょう?」
「絶対ウソだ〜。俺、まだ父ちゃんと居た頃、幼かったけど…とうちゃんが哀ちゃんを見る目…何か意味深だったの覚えてるんだよなぁ〜」
「・・・。あなた…それ、お母さんの前でも言える?」
「言える訳ねーだろ!哀ちゃんだから言うし…もう、そろそろ時効かなって。」
「……。」
思わず、言葉を失った。
工藤新一の息子だけあって、言葉をよく知っているし、侮れない。
しかし、だからと言ってどうしろと言うのだ。
私は気分を変える為に、コーヒーを一口飲んだ。
「哀ちゃんは、もういいオバサンなのに、何で結婚しねぇ〜の?」
「・・・おばっ!?あ、あなたねぇえええ!!!」
「あ、間違えた!お姉さん。」
「…いつもそう言ってるでしょ!!言葉には気をつけなさい!!!」
「へいへい。」
はー…やっぱり似なくてもいい所が似ていると…私は、思わず頭を抱えた。
晴希の事は、産まれた時から面倒を見ていた。
工藤くんが家にいない時…たまに遊びに行っては、お風呂に入れたりもしていた。
そのせいか、こんな生意気に育っても、可愛くて仕方がない。
蘭さんと離婚すると聞いた時…流石に混乱してしまって、仲裁に入ろうと思ったが…夫婦の事には口出し無用だと博士に言われて…私は暫く距離を置く事にした。
離婚が成立してからは、晴希は、蘭さんと蘭さんのお母さんと一緒に住んでいる。
父親と会う事は、許されなかったとしても…ここまでよく気丈に育ってきたなと私はとても感心していた。
「哀ちゃんが結婚しないのって、とうちゃんが理由かな〜って思ってた。」
「だ・か・ら!何でそうなるのよ?!」
「じゃー…俺と結婚しない?」
「はぁあ?」
思わず、かくんと首が変に曲がりそうになる。
話しについていけない。
そんな私に…晴希はくつくつと笑った。
「だって、俺…哀ちゃんのこと、好きだもん。」
「…そう?それは、ありがと…」
「嘘じゃねーし!!俺の中の遺伝子かな〜?哀ちゃんの事、好きだと言ってんの。」
「・・・。」
「だから、分かるんだ〜。とうちゃんも…哀ちゃんが好きだったんだろうなって。」
「…あのね、晴希、いいこと教えてあげる。」
「何?」
「神様は時にね?赤い糸を結び間違えるんだって。でも…運命の二人はね…それで離れたとしても、また元に戻るのよ。」
「…何?それはつまり…とうちゃんとかあちゃんは、また元サヤに戻るって言いたいの?」
「…晴希も、内心ではそれを望んでいるんでしょ?」
「んーー。じゃあ、とうちゃんがライバルじゃないなら、俺にも勝算はあるかな?」
「……。あなた、本当に小学生??」
そんな私の言葉に、晴希はまたくつくつと笑った。

::::::::

なーにが遺伝子だ、あのマセガキめと…私はそんな事を思いながら帰路についた。
最近の小学生は、理解に困る。
まぁ、そう言う自分とて…非現実的な生活を送ってきた身なのだが。
組織が崩壊して…宮野志保として生きる事を諦めた。
辛い記憶を何もかも忘れたかった…それが大きな理由だったのかも知れない。
晴希が言うように…結婚しないのは、工藤新一の存在があったからではない。
昔に抱いた気持ちなど、もうとっくに吹っ切っていたし…結婚しないのは、いつまで生きられるか分からなかったからだ。
毒薬が入ったこの身体のまま、生活をしていくなんて死に等しい。
けれど、それでも良かった。最初こそ、それが本当の目的だったのだから。

曲がり角を曲がった丁度その時、思わずはっと息をのんだ。
「…っと…」
ぶつかりそうになったその人が、工藤新一だったからだ。
「ーー…。灰原…久しぶりだな。」
穏やかな笑顔を向けられる。
また少し、歳を重ねたような気がした。
「工藤…くん。久しぶり、ね。」
晴希に言われた事もあってか、何だかとても顔が見づらかった。
「きょ、今日は…どうしたの?こんな所で…」
変に意識してしまって、言葉がままならない。
晴希のやつ…と私は心の中で毒づいた。
「ああ、近くまで来たから…実家に寄って本でも取りに行こうかと。」
「…そ、う。」
そう話す工藤くんは、従来の輝きを失ったような感じがした。
それが悪いという訳ではない。
ただ、少しだけ…その現実が寂しいと感じた。
「……んだよ、なーんか憐れみのその瞳が、息苦しいんですけど。」
「そ、そんなんじゃないわよ。」
「…まぁ、本当の事だから、別にいいけど〜。」
「あら。なんなら、慰めてあげましょうか?」
「・・・え?」
瞬間…向けられた熱い眼差しにドキリとして…なーんてねと言うタイミングを失ってしまった。
「ーー…こんな情けねぇ姿…オメーだけには…見られたくなかった、な。」
「工藤くん。」

昔の気持ちなんて、とっくに忘れたと思っていた。
けれど…体内に残っているこの毒薬と同じで…少しだけしぶとかったみたいだ。


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