ラビアレ

□Trick or treat! -お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ-
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普通の人ならほぼ前が見えないであろう廊下を歩くこと約3分。
向こう側から誰かが歩いてきた。
とても長い藍色の髪を持っていて、床に着く着かないギリギリくらいの丈のコートを羽織っている。派手さは一切なく黒一色で、首には銀のネックレス(よく見るとドクロの形)をしていた。
その人はかなり不機嫌そうに廊下を歩いていて、僕の横で立ち止まると一言、


「ついて来い」


それだけ言って、背を向けて歩き出してしまった。
…今の声…聞き覚えがあるなぁ……。
いやまさか!有り得ない!
頭を思いきり横に振り、その人の後を着いて行く。そのまま無言で歩いていき、室長室の前に着くと、その人は振り返り、


「せいぜい頑張るんだな……モヤシが」


はんっと馬鹿にするような感じで(いや実際馬鹿にしてたと思う)言い捨てられた。
…やっぱり…!


「アレンです!バ神田!」

「口答えすんじゃねぇよ!モヤシが!」

「うっさいですよパッツン!」

「黙れこの似非紳士が!」

「二人共止めるさぁ!」

「うっさいですね!ラビは黙ってて下さ…」


折角喧嘩していたのに邪魔されたから、いつものように黙らせようとしたんだけど……
ラビの恰好を見て、言葉が止まってしまった。


「だっ大丈夫ですか?!」


全身ほぼ包帯だらけで、尚且つ所々に血が付いてて…。
慌てて駆け寄って行った。


「平気さ〜こんなもん」


ケラケラと明るく笑ってみせたラビ。
でも、包帯には血が付いてるし…。


「本当ですか…?」


少し心配そうな声色で言ってみる。(いや実際心配はしてるけど)
だけどラビは僕の言葉なんか全然無視して、右手を差し出してきた。


「Trick or treatさ♪アレン♪」


そんな無邪気な笑顔を向けられても…。
…って、あれ? Trick ortreat?
今日は、10月31日…。
……あ!すっかり忘れてた!


「ハロウィン、ですか……」


だからリナリーはあんな個性的な帽子被ってるし、神田は変な恰好だし、ラビは包帯だらけなのかぁ…。
揚げ句の果てには廊下の照明まで…。
ちょっと懲りすぎなんじゃないのかなぁ?
そんなことを考えるのは、僕だけじゃないだろうなー…。


「あ、報告書…。また後で会いましょう」


笑顔を浮かべた後、室長室のドアを開け、部屋の中へと入った。
ラビの「えー、無視さぁ?」って言う声が聞こえたような気がするけど、聞かなかったことにしよう。うん。



中に入ると、廊下とは打って変わって明るい空間が広がる。
普通の人ならかなり眩しいだろうけど、僕は慣れてるから大丈夫。
…相変わらず、書類だらけの部屋だなぁ…。
そんなことを思いつつ前へ進んで行き、眠っているコムイさんへと近寄る。
……ここは…やっぱりあれしかないのかな…。
そっと耳元に口を寄せ、こう囁いた。


「リナリーが結婚しちゃうそうですよ」


「リーーーナリィイイイィイイイ!!!!!お兄ちゃんに黙って結婚だなんて酷いよぉぉおおおおぉお!!!!!!」


教団の人皆が既に見慣れてしまったであろう、この光景。
かなりの大声だけど、耳を塞いでしまえば大丈夫。


「おはようございます、コムイさん」


苦笑いを浮かべつつ、大人しい声色でそう言った。
涙と鼻水だらけで(こう言っちゃ何ですが)決して美しいとは言えない表情から、きょとん、といった表現が似合いそうな表情になったコムイさん。
そのまま「リナリーは?」と尋ねてきた。


「リナリーなら「ここにいるわよ?」


僕の言葉を遮り、後ろからひょこっと姿を現したのは、リナリー本人。
驚いて振り返ると、両肩をガシッと掴まれた。


「へっ…?」


な、何で?
僕、何か悪いことしましたか…?
何時もは普通のリナリーの笑顔が、何だか異様に怖い。
体中から冷や汗が吹き出てきた。


「折角のハロウィンなんだから、アレン君も仮装しましょうよ♪」


にこっと、まさにそんな効果音でも付いていそうな笑顔を浮かべられた。
……何か…逆に怖い、です……。


「で、でも報告書が「そんなの明日でもいいわよ♪ね、兄さん♪」


反論する余地もなく、決め付けられてしまった…いわゆる、拒否権は無し、とかいうのですか…。


「あぁ、うん……今日はいいよ♪任務のことなんか忘れて、楽しくやろう♪」


「えっ?!い、いいんですか?!」


「うん♪」


……リナリーもリナリーだけど、やっぱり元凶はコムイさんか…。
もういい。何とでもなれ。
気持ちを切り替え、苦笑いを浮かべた。


「わかりました。明日、改めて伺いますね。報告書はその時に…」


「じゃぁアレン君……ごめんなさいねv」


ドフッ


…腹に鈍い衝撃が走る。
壁にぶつかって気絶する寸前、僕が、最後に見たものは。
…恐ろしく怖い笑顔で僕を見る、リナリーの姿だった…。



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