紅蓮の煌
□Prologue
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光り輝く朝。
庭園の隅の亭に一人の女性が腰を掛けていた。
柔かな風に、長い艶やかな漆黒の髪をなびかせていてその姿は絵になるほどに美しい。
そして、傍には童が二人。
「ははうえー、あのお話してー!」
「あー!ずるいぞ!俺も聞きたい!」
二人の小さな童が腕にしがみつくように母親である女性にねだる。
その童の仕草が可愛らしくて、母親は小さな色白の顔に満面に笑みを浮かべながら二人の子供の髪を優しく撫でた。
『ふふっ。また聞きたいの?』
「「うん!」」
声を揃えて答える様もまた愛らしい。
くすり、と母親は笑うと、珊瑚色の唇から物語を紡ぎ始めた。
『…昔、昔。一人の女童に訪れた不思議な不思議なお話。』
母親はゆっくりと瞳を閉じながら言葉を紡ぐ。
神秘的な母親の姿に、二人の童は興味津々に瞳を輝かせて話に耳を傾けた。
『女童は裕福なお屋敷の生まれで、何一つ不自由の無い暮らしをしていました。両親にも愛されていて、食べる物も、着る物も、お金も。欲しい物は何でも手に入るお屋敷でした。でも、そんな彼女にも手に入らない物が一つだけあったのです。』
「わかった!"てんか"だろ!?」
「ばかだなー!女童が天下なんか考えてないよ!きっと南蛮の珍しい物が欲しかったんだよ!」
『ふふっ。違うの。その子が欲しかったのは"自由"よ。』
「"じゆう"〜?」
『ええ。"自由"。お友達も身分が違うって作らせて貰えなかったり、お屋敷から出る時は、寺子屋に行く時以外はお付きの方を連れて歩かないと行けなかったり……結婚をする相手も親に決められていたの。』