□見たくないから見ないんだ
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俺の知らない声で話す。

俺の知らない話をする。

俺の知らない笑顔を作る。

俺の知らない表情がある。

こうして、俺の知らないクロナが出来ていった。


「………ラグナロク?聞いてる?」

「うるせぇな。聞こえるのわかってるだろ。」

「なら、いいんだ。」

「はぁ?」

「最近、出て来てくれないでしょ?だから、心配だったんだよ。」

「こんな気持ち悪ぃクロナとどう接していいかわからない。」


最近は聞くこともなくなったこいつの口癖を真似てやれば、酷いなぁーと苦笑された。

これも俺の知らないクロナだ。


「ラグナロク」

「なんだよ。」

「出て来てくれないの?」

「疲れんだよ。お前の顔なんて見たっていい事ないだろ。」

「僕は見たいんだよ。」

「ふーん」


俺のクロナはこんな事言わない。

俺のクロナは何時も何かに怯えて(大抵は母親だったりする)俺にしか心を開かなくって、殴られながら俺なしでは生きていけないと弱々しく笑う。

そんな狂気に堕ちて狂ったように俺を振るっていたあの時のクロナが俺は大好きだった。

今いるのは俺とあの母親で構築されたクロナじゃない。

違うもので構築されたクロナに会って何がある?

何もないじゃないか。


「気持ち悪いぞって殴らないんだね。」

「今のお前を殴ったって楽しくねぇんだよ。」

「そっか。なんか寂しいよ。………こんな僕でも寂しいとか思うよになったよ。」

「ふーん。」


お前は誰だ?




見たくないから見ないんだ
俺のクロナじゃないから







end

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