□棄てたのではなく『持っていなかった』
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「最後の拠所を棄てて、黒血は完成するの!」


息も絶え絶えな女は僕を見上げてそう言った。


「大好きよ、クロナ」


だれ?

それ。

僕は『クロナ』なんて奴しらないよ。

だれなのさ。

ってか、これは誰?

なに?

それより、この女何言ってるの?


「・・・拠所はお前じゃないよ」


そうだ。

そうだ。

僕の拠所ってここじゃない。

真っ赤に染まった床に膝をついた。

そして、目を閉じると真っ暗だった。

うん。

昔からこの暗闇が僕の拠所で。


「ラグナロク・・・」

「うげぇ〜・・・まった。派手にやったな〜」

「ラグナロク。僕は『お母さん』を棄てたんだ。こいつの言った通りに。でもね。僕は君だけは棄てないよ?」

「当たり前だろ?お前は俺で。俺はお前だ。」

「うん。僕はラグナロクでラグナロクは僕だ。」


そうだ。

僕は棄てれない。

棄てないんだから。

誰が何を言ったとしても。

ラグナロクだけは。

例え、『お母さん』の命令でも。

だって。

僕の拠所で僕に一番優しくって、僕に一番厳しくって。

暖かくって、冷たくって。

なんでも与えてくれるのはラグナロクだけだもん。


「だから。棄てないよ?」


真っ黒な血だって。

この『狂気』だって。


「ラグナロクがいなくっちゃね」

「そうだぞ、だから。この魔女の魂も食ってしまおうぜ。」

「そしたら。ラグナロクは強くなる?」

「なる。なったらまた人を殺せるぞ?で、俺たち二人だけの世界作るんだ。もちろん。王様は俺だからな!」

「うん。うん。ラグナロクが王様で・・・僕は?」

「お前は家畜だな!」


それいいね。

それ、素敵だね。

僕らだけの世界。

何も棄てなくってもいい世界。

今でも僕らだけの世界なんだけど。

素敵だね。

幸せだね。

でも、幸せってなんだっけ?




棄てたのではなく『持っていなかった』
初めから僕にはラグナロク以外何もないんだ




END


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