短い読み物B

□そんなあなたに奪われたんだ!
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剣を交えた瞬間、直感した。

この人、強い。










ギィンと静寂な空間に金属と金属が激しくぶつかる音が響く。


今日はうちのシマを荒らした報復でとあるファミリーを潰しに来た。
こんな重要任務だってのに私しか出せない中小マフィアっぷりに相手も甘く見てたんだろう。


残念。うちは少数精鋭なもので。



先程から言葉によらない解決法を実行していたのだが、どうやら他の組織と襲撃が被ってしまったらしい。


マフィアは恨まれてなんぼ。何て言ってた奴がいたけれど、いやぁ、2つの組織が任務被るって相当だと思うよ?


うちだけかと思ったけど。
だいぶやっかまれてんじゃないのかな?





で。



さてここからが問題です。



この目の前の人は敵でしょうか?

それとも同業者でしょうか?




銀の長髪をたなびかせながら剣を振るう相手を見た。
この顔、ターゲットリストには載って無かったなぁ。


「気い抜いてる暇はないぜぇ!」

「はぁっ!」


相手の剣撃が鼻先を掠め、私の刀の先が彼のコートを薄く切った。


間合いを取ったのもつかの間。直ぐにまた刃を交わらさせた。


キィンキィン


広いホールに響く刃の残響。
自然と薄く口角がつりあがった。



ヤバい楽しいかも。



「あんたこそよそ見しないで!」

「あぁ?!」


胴を薙ぐが紙一重で避けられ、逆に懐に踏み込まれた。



ガキンッ!!


「!?」

「何でも使えってね」


とっさに鞘で剣撃を防げば、取ったと思ったんだろう。相手が酷く驚いた表情をした。


「嘗めないでもらいたいわ」


きっと相手を睨み付けた。
私だって剣士の端くれ。女だからって油断するとか失礼だわ。
その言葉に銀髪がピクリと反応する。



「そうだなぁ」



彼はにやりと楽しげに笑みを浮かべた。
あら、笑うと意外と男前かも。



一度刃を離し、左右から斬りつけるが簡単に払われる。
今度は相手が連続で突きを繰り出すので鞘と刃で防ぎながら、剣撃の止んだ隙にこちらも突きを繰り出した。
が、刀を使わず身軽に避けられる。


じゃあこれは?

上段から斬りつければ、避けずに刃で受け止め払う。

ならこっちは?

鞘で彼の斬り込みを受け、斬りかかろうとすればさっと身を引き私の間合いから避ける。


じゃあ今度は・・。




何か、命の取り合いをしているっていうのに。
テニスのラリーでもしているみたい。


こんなの初めてだ。
変な感じ。相性かな?


相手も同じ気分なのかも。表情も、剣先からも楽しげな気配がする。



ギィン、キンキン



ギリギリとつばぜり合いになった。
さすがにこれは単純な力勝負。
私の力じゃ厳しいな。

現に徐々に押されはじめている。
刀をはねあげて再び間合いをとろうとした時、彼の空いた右手がグイッと胸ぐらを掴み、引き寄せられた。


ヤバい!ぶつかる!?








「ッ―――」







!?


交わされたのは刃ではなく彼の唇。


柔らかいそれは直ぐに離された。


「・・・」

「・・・」





・・・




え゙え゙え゙!!!



かぁっと熱が顔に集中してくるのが分かる。
心臓がどくどくと早鐘を打ち始めた。


「な、な、何んで」


いきなり初対面の相手に何て事すんだ。と、思いつつ嫌がってない自分もいる訳で。
相手も戸惑った様子で頬をうっすらピンク色にしている。
いやいや、あんたが戸惑わないでよ。



「・・思わずだぁ」

「はぁ?!」


意味分かんない!?
勢いでキスすんのかあんたは!!



意外な告白に私はぎゅっと刀を握る手に力を込めた。
一瞬でもときめいた私がバカみたいじゃない!


「何それ、マジ許せん!女性の敵!!」

「ち、違!刀を振るうお前にだなぁ・・」


「問答無用!!」



全く、ふざけんな!
私のときめきとファーストキス返せぇぇ!!









そんなあなたに奪われたんだ。




「おい、スクアーロ。そいつターゲットじゃないぜ?」

「分かってらぁ!!」

「こら待て!変態!!」

「しし、何だ。じゃれ合ってんの?
いちゃつくんなら他でやってくんねぇ?」


「「じゃれてない!!」」






080616

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