短編集

□過去拍手1
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「ああ、そうだ。」

「うん?」


アンタってさ、逃げ足だけは一人前何だって?

ハジメマシテ、の後に自己紹介。お互い名乗ってサヨウナラ。
そうしようと思ったのに、そんな隙が一切無かった。さすがは次期ブックマンだなと少し感心する。
何だ、リナリーといたのがそんなに気に食わんか。


「うん、そうだねぇ。」

「、何さ。意味分かってんの?」

「分かってるよ。」

「じゃあ何?言ってみろよ。」

「言わないよ。」


彼の笑顔が一層濃くなる。
片目を薄っすらと開けて私を見たのは、彼なりの挑発なんだろうか。
どこの餓鬼だ、てめぇはよ。


「何で?やっぱり分かんない?」

「いんや。」

「じゃぁなんで?」

「それも言わない。」


何だかアホらしくて私は彼の横を通り過ぎようとする。
でもグッと右手で腕を掴まれてしまって、それは簡単に阻止された。
痛い。そこ昨日ソカロ師匠の攻撃避けきれなくて、モロにくらった所なんですけど。

私はため息をついて彼に向き直る。
彼ごしにあの神田ユウが見えた。立ち聞きか、あの人。


「なに。」

「答えるさ。何でいわねぇの?」

「認めたくないからだよ。」

「何を?」

「ここに、いるのを。」


その言葉を聞いた瞬間、突然彼が笑い出す。実に不愉快だ。
眉間に皺を寄せると彼が私の肩をぽんぽんと叩く。
右手に力が込められていくのと比例して、団服の中で腕から血が流れた感触がした。


「前言撤回。アンタさぁ、臆病じゃねぇわ。」

「、」

「なに、一人で被害者ぶってんの?」


彼が嗤う。瞳はとても、冷たかった。


無駄に回る頭に彼の言葉がエコーする。
彼は私の言葉をそのまま飲み込んだのだから仕方ないねぇ。
ここは、やっぱり好きじゃない。

私は笑った。
目の前の彼と、奥に見える彼の瞳が驚いた様に私を見つめる。


「何、笑ってるんさ。」

「消えればいい。」

「、は?」


遠くでリナリーの声がする。


「そう、望んでも世界は消えない。周りも消えない。だから手っ取り早く私が消える。」

「、自殺でもする気さ?」

「いんや。もうこの際だから言っちゃうけど、私は臆病だからさ。そんな事できないんだよね。」

「じゃあどういう意味さ。」

「まあつまり、わたしは」


帰りたいんだよ。


「、待てよ!」

「クラウド師匠が呼んでるんだー。じゃね。」


彼の手を振り払って私は歩き出す。
後ろの方でリナリーが彼に声をかけた気がした。
ほら、これでもうアンタは私を追えないでしょう?





<使徒≠私>
(認めたくねぇって、エクソシストが嫌だから、戦いたくないからじゃねぇのかよ)
(違うよ。私はこの世界にいる事を認めたくないのさ)



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実は初めラビとちょー仲悪かったっていう薄桜鬼主のお話その一。



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