通常
□途切れた想い
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思いが繋がっていたとしても、それが相手に伝わっていないのなら。
それは繋がっていないのと同じ事。
―――――ああ、全くもってその通りだ。
部屋でテレビを見ていると、聞き慣れた着信音が携帯から鳴り響く。
相手は分かっている。この音は、あの人専用だから。
鳴り続ける携帯を手に取ると、携帯を開く。そこには「新着メール 一通」の表示が。
あの人からのメールを見ると、「今何してる?」の一言。
あの人は…太子は、毎日必ず一通は僕にメールを送ってくる。今のように一言だけの時もあれば、その日あった事を文章で送ってくる時もある。
(僕も同じ所で働いているのだがら、ある程度の事は知っているというのに、だ!)
送信メール画面を開き、本文を打とうとして固まる。
太子からのメールが日常になっているのならば、僕がそれに返信しようとして携帯を持ったまま固まるのも既に日常となっていた。
太子と付き合い始めて半年。
付き合うに至る経緯を考えると、今更恋人らしく甘くなるのも恥ずかしいし、何より僕のちっぽけなプライドがそれを許さなかった。
僕が太子と会ったのは一年前のこと。
会社の人事異動により、僕の部署が彼の担当する部署へ移った時だ。
今もそうだが、太子は会社内ではとても有名な人物だった。
簡単に言うと、「完璧な男」。
営業をやらせれば一日で大きな契約を数件取ってきてみせたり、重要な会議でのプレゼンを任せると見事な手腕で相手を納得させたりと、とにかく有能な人として社内では噂されていた。
そんな人物を上司として持つことへの嬉しさと緊張が綯い交ぜになって、正直最初の挨拶では何と言ったのか記憶にない。
ただ、ガチガチになった僕を宥めるように肩をぽんと叩いてくれた事だけは鮮明に覚えている。
しかし、翌日になると僕のイメージは音を立てて崩壊した。
「妹子!妹子!」と僕に纏わり付いてあっちこっちへと連れ出されるようになったのだ。
お昼を食べに行ったり、仕事の後にぶらぶらと遊びに行ったり。
とにかく何かにつけて僕を同行させ遊び回っていた。
イメージと現実とのギャップであったり、纏わり付かれる事の煩わしさもあって最初は随分冷たくあしらっていたのだが、次第に彼の自由奔放な所に惹かれていったのだと思う。
……はっきりしないのは、もう僕自身きっかけが何だったかなんて覚えていないからだ。