通常
□時代を越えて伝わる想い
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「私を知っているのか?」
「ええ。僕も一応日本国に生まれた者ですから。“聖徳太子”の御名は存じております」
「“日本国”?」
「倭国のことにございます。僕の時代では日本国、と」
物腰柔らかな言葉遣い。きっと彼は上流階級のものだろう、その仕草一つ一つに品があった。
「紹介が遅れて申し訳ございません。
僕の名は小野篁。昔太子様から遣隋使の任を拝命しました小野妹子の子孫にござます。
この度閻魔大王様との契約により、閻魔庁にて裁判補佐をさせて頂くことになりました」
どうぞ宜しくお願い致します、と彼は臣下の礼を取る。
「妹子の…子孫?」
「御意にございます。
今回僕が貴方様のことを存じていたのは、先祖である小野妹子が残した書物に貴方様のことが書かれていたからもあるのです」
そう言って彼はふわりと笑った。
それは先ほどまでの堅苦しい感じのするものではなく、きっと彼本来のもの。
けれど…そうか。
妹子は次の世代へと命を繋ぐことが出来たんだな。
おまけに揃いも揃って顔が整っている。
……少し悔しい感じがするのは気のせいだろう。
「あのお芋のことだ。私の悪口ばかり書いてあったんだろう?」
実際生前も散々言われていたしな。やれアワビだアホ摂政だとか。
本になるとどんな書かれ方をしているか分かったもんじゃない。
しかし篁は「いいえ」と笑って答えた。
さも面白いものでも見ているかのように。
「書き残された書物には、太子様と先祖の日常が書き綴られてありました。その日は何をしたか、何があったか。
そして、先祖の太子様への感謝の気持ちが」
感謝の気持ち…?妹子が?
「太子様亡き後は、ただひたすら後悔の念が綴られていました。
“自分はあの人に何一つ伝えることは出来なかった”、と。
“御礼の言葉一つも伝えられなかった”と」