通常

□時代を越えて伝わる想い
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「全く、何で私が新しい人とやらを迎えに行かにゃならんのか…」


 ぶつぶつと愚痴を零しながら、私は「お手伝いさん」を迎えに行くため閻魔庁の廊下を歩いていた。



 何故こんなことになったのか。
 


 それは、少し時間を前に遡る…。 






「太子。今から“お手伝いさん”を迎えに行ってあげてくれる?そろそろ来ると思うんだよねー」


「はぁ?何で私が…。
 閻魔が入れたんだから、閻魔が迎えに行けばいいだろ」


 第一どんなやつか顔も知らないというのに。

 私がそういうと、閻魔は困ったような笑みを浮かべて「オレもそうしたいんだけどね」と呟き、自らの机に視線をやった。

「オレは今仕事が立て込んでるからさ…。ほら、これを投げ出していったら鬼男くんが怖いし」

 ……ああ、確かに。

 昨日閻魔がさぼったとき、次にさぼったら穴だらけにするって言ってたな。そういえば。

 鬼男のことだから、ここで閻魔が抜け出したら間違いなく実行するだろう。

 当の本人は、こちらの会話に加わることなく黙々と手を動かしている。



 でも新しく入る人材を迎えに行くのは“さぼり”にはならないんじゃないか…?

 そりゃあ上の立場にいる者がすることではないが、それでもこれだと鬼男も怒らないと思うんだが。

 そう思って口を開こうとしたとき、それを遮るかのように閻魔は両手をぱんと合わせる。


「お願い太子!太子しか頼める人いないんだって!
 彼も人間だから、オレらが行くよりも同じ人間の太子が行った方が緊張しないですむし!

 それに、ほら!今度サーラメーヤを貸してあげるからさ!」


 サーラメーヤという単語に、私の心がぐらついた。


 

 サーラメーヤは、閻魔が飼っている2匹の犬だ。
 
 四つ目の斑模様で、大きさは山犬と同じくらい。

 死者の番犬として敬遠されているようだが、私からしたら冥界に唯一存在するワンちゃんであることに変わりない。


 く…っ!サーラメーヤを引き合いに出すなんて何て卑怯な…!
   
 私が迷っているのに気付いたのか、閻魔はニヤリと笑った。



「何なら一日中ずっと遊んでもいいよ? サーラメーヤも太子には懐いてるみたいだしね」



 この言葉で私の敗北は決定した。


「……絶対だぞ。約束だからな」

「神様は約束を破りませーん。
 嘘ついたら閻魔大王に舌を抜かれちゃうからね」


 少しおどけた閻魔の言葉を受けながら、私は執務室を出た。















「……大王。何を企んでいるんですか」

「ん?何のこと?」

「惚けないで下さい。今のことですよ。
“閻魔大王”と言葉を交わして、さらにここで働く“契約”まで交わした人間が、今更僕たち獄卒に緊張するはずないでしょう?
 わざわざ回りくどいことまでして太子さんに行かせて、何を企んでるんですかと聞いてるんです」

「やっぱばれちゃったかー。
 でもね、今回は別に何か企んでる訳じゃないんだよ。

 ただ、これが“契約”だからね。オレはそれを履行しただけだよ」

「……はぁ。面倒なことは起こさないで下さいよ」

「分かってるって。大丈夫だよ」





 私が退出したあと、二人がこんな会話をしていたことなど当然私は知る由もない。
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