小説『好きになってください』
□第1話『邂逅(かいこう)する動揺@』
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柊
「なに…って、文化祭の準備」
まぁ、たしかに
看板やら、
店内装飾と思われるダンボール細工が、床に散らばってはいるのだけれど。
ユズキ
「…みんなは?」
やってねーじゃんと言いたい所を堪えて別の質問。
柊
「…あぁ…コレ塗ったら終わりだから、もう帰った」
ストーブからおりて、床にあぐらをかいた。
渋々、といったふうにポスカのキャップをポンとはずして
黒塗りを始める柊。
ユズキ
「あ〜…手伝うよ、それ。塗り終われば帰れんだろ?」
乗りかかった舟、
というほど恩着せがましい気持ちはなかったが、
何故だか
柊に関わりたいという小さな衝動を感じていた。
それをユズキは、友達になるチャンスのようなものだと思っていた。
柊
「いいよ別に。つか、自分のクラスは?」
ユズキ
「終わったところ。ちゃっちゃとやろうぜ。
それに…」
柊
「…なんだよ」
ユズキ
「美術部員としては、その愛情のない塗り方は見過ごせねぇなぁ」
ユズキは少しずつ教室に入ってみた。
一歩一歩が、とても大事な距離を縮めるような感触を上履きから感じた。
柊
「フッ…見過ごせよ」
ようやく笑った。
ほんの少し。
さっきから、哀しいとも、不機嫌な仏頂面とも取れるような顔をしていた柊。
そんな顔をしていたのに
成り行きとはいえ、話したこともない柊とよく話せたもんだと思った。
見かける程度の意識ではあるが
柊の顔はいつも友達ともっと笑っていたような気がする。
こんな表情は見たことがなかった。
柊
「てか、美術部なんだ」
ユズキ
「あ、うん。9月から。」
柊
「まだ1週間経ってねーじゃん」
ユズキ
「はは…。」