小説『好きになってください』
□第1話『邂逅(かいこう)する動揺@』
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1-Fには人がいた。
ひとりだけ。
窓際の、ストーブ(夏なので使われていない)に乗っかって外を見ている男子がひとり。
もう、一言で言えば
「黄昏てる」で伝わる。
制服の黒いパンツを膝までたくし上げ、
シャツを第2まで開けている、
この時期メジャーな仕様の着崩し。
片膝を曲げ、肘をつき
顎を手にかけて―――
これでもかというスタンダードな
黄昏っぷりだった。
ユズキは、
人がいると思わなかったことと、
もうひとつ、
なにか不思議な感情に一瞬で支配されたことで、
体がドアの前で固まった。
男子
「…あ?」
ユズキに気付いて、特に慌てる風でもなくこちらを見てきた。
ユズキ
「あ…えと、
…なにしてんのかなぁ…と」
向こうもスタンダードに黄昏ていたが、
ユズキは自分もスタンダードな反応だなとつっこんだ。
思い出した。
合同体育で一緒の、
…確か「柊」。
フルネームはわからないが、
入学してからろくに話したこともない。
いや、初めてだ。
初めての、柊との会話、だった。