小説『好きになってください』
□第1話『邂逅(かいこう)する動揺@』
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9月…
夏休み明けてなんと一週間後に文化祭が控える
都立修明(シュウメイ)高校―――
陽がようやく暮れ始めた18時…
文化祭に向け準備で賑わっていた校内が
徐々に生徒が帰っていき
静かになり始めていた―――
【校舎3階】
櫻井ユズキ
「やっと終わった…」
ぽつりと呟きながら
ユズキは廊下を東階段に向かって歩いていた。
両手で抱えてるのはダンボールのゴミ。
看板作りなどに使用した切れ端を集めて
本日最後のゴミ捨てを引き受け
他のみんなを帰した。
いや…
…みんな、じゃない。
もう、残っていたのは、同じ1-Aのクラス委員女子、
橋場希(ハシバノゾミ)だけだった。
正直、ユズキは
希と一緒に帰りたくなかった。
「こーゆー風に思うって事は、
やっぱ引きずってんのかなぁ、オレ」
階段を下りようとして、ふいにすぐそばにある美術室を覗き込んだ。
ドアの小さな窓から
電気は消えていて、もう誰もいないことが分かった。
「はぁ〜あ…」
なにか思うことがあるのか、ユズキの顔は不満げにも、後悔しているような顔にも見える。