「『カミツレ』さんは図書隊の方なんですね。」
オフ会が初めて程なくして、「ファントム」が郁にそう聞いてきた。
郁は思わず「え!?何で!?」と動揺する。
身分は公務員としか明かしていないのに、なぜわかったのか。
「掲示板に書かれた情報からですよ。まず公務員で、夜勤があって、寮暮らし」
「それは図書隊だけじゃないですよね?」
「あとよく行くお店の話とか、全部関東図書基地近辺ですよね。」
「そ、それは。。。」
「とどめはハンドルネームの『カミツレ』です。図書隊の階級章にも描かれている花ですよね?」
ダメだ。何か知らないけれど負けた。
郁はガックリと肩を落とすと、ため息をついた。
今まで郁が書き込んだ内容を丁寧に拾えば、ある程度推測できてしまう。
そんなことに気付かないなんて、特殊部隊隊員としてはどうなんだろう?
「すみません。そこをツッこむつもりじゃなかったんです。恋愛トークしましょう。」
集まったメンバーの中では一番冷静で感情がわかりにくい「ファントム」が心なしか慌てているようだ。
郁が肩を落とした気配がわかり、フォローしたつもりなのだろう。
主催者なのにそんな気遣いをされて、郁はまたまた落ち込んだ。
あたしが足りないのって、そういうところなのかなぁ。
郁は心の中で、そんなことを考えた。
真っ正直だとか、裏表がないなんて言ってくれる人はいる。
だけど同じくらい考えなしとか、もっと周りを見ろとも言われるのだ。
何よりも片想いの相手からは「脊髄でモノを考えるクセをどうにかしろ」と言われた。
そして「案件は脳まで持って行け」とも。
「『ファントム』さんくらい気が回れば、あたしの恋もかなうのかなぁ?」
「違うと思います。『カミツレ』さんはそのままでいい気がします。」
「そうですかぁ?」
「班長さんもそういう『カミツレ』さんが好きなんだと思います。」
郁は「ありがとうございます」と礼を言った。
おかげで気分は少し浮上した。
多分郁の想い人は、郁を好きでいてくれると思う。
だがその好きは部下として好きで、女として愛してるかというと微妙な気がするのだ。
そんな風に自分の話をして意見をもらったり、他の人の話を聞く。
これぞ恋バナ、ちょっとずつテンションが上がってきたところで、そろそろカウントダウンだ。
すると主務が「やっぱりボク、飲みます!」と店員を呼び、ハイボールを頼んだ。
酒乱だからと言って、最初の乾杯以降はジュースだったのに。
だけどそれを見た郁も、何だか飲みたい気分になった。
「あたしもハイボール!」
郁がそう叫ぶと「エメラルド」が「オレも!」と手を上げた。
「エース」と「ファントム」もお代わりを注文し、ちょうど揃ったところでカウントダウンとなった。