長編(黒バス・キセキの未来)

□黒子暗躍(1)
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「それじゃ、行ってきます」
黒子は練習している部員たちに声をかけると、体育館を出ていく。
降旗は「うん。よろしく」と応じるが、内心は複雑だった。

降旗たちが3年生になって、切実に困ったことがある。
それは先輩たちが卒業してしまったこと。
もっと具体的に言うなら、監督を務めていた相田リコの卒業だ。
選手が抜けた分は、新入部員で補強する。
だけど監督の代わりは、そう簡単には見つからない。

そんな中、手を上げたのは黒子だった。
新しい監督は捜しているが、簡単ではない。
だから見つかるまでの間、自分がその穴を埋めると言い出したのだ。

「そんなこと、できるの?」
降旗は率直に心に浮かんだ疑問を黒子にぶつけた。
部活の練習もあるし、受験勉強もある。
さらに監督業などやる余裕があるのかと。
だが黒子は涼しい顔で「まぁ何とか」と答えた。

そして黒子は部活の時間に外出することが増えた。
目的はスカウティング。
今後対戦する可能性のある高校を偵察するのだ。
そして得た情報をわかりやすくまとめて、部員たちに伝える。

「なぁ黒子。このデータ、すごくね?」
黒子が集めてきた情報を見た降旗たちは絶句した。
相田リコの情報収集能力も高校生の女子とは思えないほど、緻密で正確だった。
だけど黒子のデータはその上を行く。
実に細かくわかりやすく、相手校の特徴をまとめていた。
さらに誠凛の現在の戦力を考慮し、どう攻めるか作戦まで立てていたのだ。

「つかぬことを聞くけどさ、これ、合法?」
3年生だけのミーティングの場で、データを見た降旗が驚いている。
福田と河原もうんうんと頷く。
普通の偵察では、到底集めきれない情報量だからだ。
だが黒子はいつもの無表情で「合法ですよ。多分」と答えた。

「これを元に効率良く練習しましょう。的を絞れば勝機もあります。」
淡々と戦略を練る黒子に、3人は感心するばかりだ。
ここまでのデータを集めた方法は謎だ。
だけど黒子だからと言われれば、納得してしまう。

「でもさ。黒子、練習時間減ったけど大丈夫?」
「そうだね。スカウティングに時間取られたもんな。」

河原と福田が口々にもっともな不安を口にした。
黒子の外出が増え、部での練習時間が減っている。
最低限のコンビネーションの確認は何とかなっているが、大丈夫なのか。

「・・・大丈夫ですよ。」
黒子は珍しく一瞬黙り込んだが、すぐにいつも通りの無表情で頷いた。
最後のインターハイ、黒子なりにできることをしている。
2年間を共にした3人の仲間には、確かにその決意が伝わっていた。
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