短編
□拍手小話
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『雨の日に』
「嫌だわ、雨なんて」女は外を見ながら愚痴を溢した。大雨という程でもなかったが、先刻よりも雨脚は激しくなっていた。
「俺は好きだ」と男は言った。言いながら、女の肩に腕をまわそうとした。女は男の手を払いのけ、距離をとった。
「やめて」
「冷たいな。どうした」
訝しく思った男が問うた。女は男から視線を逸らせた。
「もう、終わりにしましょう」
女の言葉に男は狼狽した。
「なんで、そんな、急に」
女は男を睨んだ。
「私と貴方は正反対なのよ。私は晴れが好き。貴方は雨が好き。私は乾いた風が好き。貴方は湿った風が好き。私達、もう無理なのよ」
そう言って蝶は雨の中飛び去った。
後には一匹の蛙が残された。
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5月10日までの拍手小話。