*宵の歌姫*

□密猟者
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 ミノリとラキは、魔法使いの青年のテレポートによってフォルの森へと無事たどり着いた。ミノリが両目を開けると、見覚えのある森が目の前に広がっていたのだ。一瞬のできごとだった。ミノリは暫く驚いて目の前に突然出現した森を見上げていたが、ラキに名を呼ばれて我に返った。ラキと顔を見合わせ、森のなかに入っていこうとする。
 ラキは人型から原型に戻った。何故かと聞けば、人型のときよりも原型のときの方があらゆる感覚が研ぎ澄まされているのだそうだ。ミノリの探しびとを探す上でも、原型のときの方が自分は役にたつだろうとラキは思っていた。第一、人型のときは魔法が使えない。こんな暗い森のなかを歩くのに灯りなしでは夜目の利かないミノリは歩けないし、いざというときミノリを守るために原型に戻っておいた方が得策だろうとラキは思ったのだ。だから原型に戻った彼は、ミノリの肩に飛び乗った。と同時に光球のもとを作り出す。ミノリの周囲が明るくなった。
 ミノリはラキを肩に乗せて森のなかへと入っていった。この前入ったところと場所は同じようだった。恐らく、テレポートの際にイメージしたのがこの場所だったからだろう。知っている場所でよかった。以前迷ったときのためにと思ってつけていた印が、あちこちの木に見つけられた。だからミノリは、その印を辿って歩いていった。宵風の弟とであった地点で恐らく印は途切れているだろうが、そこまで行けばなんとなく分かるだろうと自分を信じる。
 森のなかはやけに静かだった。小鳥のさえずりすら聴こえない。生き物の気配もしない。ミノリの肩の上で、ラキが長い耳を操って注意深く辺りの様子を窺っていた。ミノリも、自分の感覚を研ぎ澄ませ、周囲に気を配りながら歩いていく。あまりにも静かなので、ミノリが枯葉を踏む音や茂みをかきわける音がいやに耳についた。
 と、何となく見覚えのある場所に出る。ぐるりと周囲を見渡してみると、ここでミノリが以前来たときにつけた印が途切れていた。そうだ、ここで宵風の弟と出会ったのだ。突然のことに驚いて、印をつける余裕がなかった。ここから、宵風の家へと向かったのだ。
 ミノリはおぼろげな自分の記憶を頼りに、一歩一歩確かめながら前に進んだ。

 暫く歩くと、その洞窟は見えてきた。見つけたとき、懐かしさのあまりあっと声をあげそうになる。はやる心を抑えつつ、できるだけ足音を忍ばせて洞窟に近づいていく。宵風の家族が住居としていたその洞窟は、以前来たときと何ら変わりないように見えた。ただ、入口から中を覗いてみても真っ暗で何も見えない。松明の炎が消えているのだ。ミノリはラキに頼んで、灯りを強くしてもらった。宙を浮く光はふわふわとミノリの周りを漂って、辺りを明るく照らす。ミノリは一瞬躊躇った後、意を決して洞窟の中に足を一歩踏み出した。心臓が煩いくらいに音を立てていた。
 洞窟の中を歩いていくと、何か違和感を感じた。ミノリは眉を顰め、歩みを進める。と、広い空間に出た。ミノリは、思わず声をあげそうになった。両手で口を押さえ、悲鳴をなんとか押し込めた。
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