短編

□季節はずれの
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 少女は眉間に皺を寄せて考え込んだ。そういえば、と少女は思う。そういえば、ひとつくらいあったっていいはずなのに、どこにもクリスマスツリーなんてなかったし、そういえば、イルミネーションをしている家庭をひとつも見ていない。そういえば、どこかクリスマスにしては暖かい――暖かすぎる気がするし、そういえば、何か別のイベントの音楽がどこかのスーパーで流れていた気がする。思い返してみれば、少女には思い当たる節がいくつもあった。
いやでも、と少女は思う。彼女は認めたくないのだった。自分がミスを犯したことを。どこかでうすうすおかしいと感じ始めてはいるのだが、それを認めるのが怖いのだ。
「まだ信じられないなら、証拠を見せてあげるよ」
 そう言って、薄着をしている少年はズボンのポケットを探った。そして中から黒い携帯電話を取り出すと、開いて画面を少女に突きつけた。
 少女は見たくなかったが、見ないわけにはいかなかった。見た途端、やっぱり見たことを後悔した。
画面が表示している日付は、クリスマスなどとうの昔に通り過ぎていることを示していた。少女は地面に崩れ落ちた。
「ほれ見ろ。俺はクリスマスなんて終わっているって言っただろ」
 突然声が聞こえてきたので少年は驚いてきょろきょろと辺りを見回したが、どこにも人は見当たらなかった。この場にいるのは、自分と少女と、あともう一頭……
「ト、トナカイが喋った……」
声の主が誰なのかを理解すると、少年はぽかんと口を開けて固まった。しかしトナカイはそんな少年には目もくれずに、地面に手をついている少女に語りかける。
「おまえは昔から間抜けだけどよぉ、まさかここまでとはな。俺があんなに、クリスマスは終わったぜって言ってもお前ちっとも聞かなかったもんなぁ。全く、呆れてものも言えねえぜ」
 とちゃっかりぐちぐちねちねちと批難を練りこんだ言葉を少女に浴びせかけるトナカイ。勝気なわりには繊細なハートの持ち主である少女がぐさぐさと傷ついていくのもお構いなしだ。むしろそれを狙っていようだった。
「ほんっと恥ずかしいやつだよな。お前なんかもう季節はずれの存在でしかないのに、なぁにが『ありがとうサンタさん、の一言もないわけ』だ。お前の方こそ、そこの坊主に感謝するんだな。教えてもらってよ。ったく、お前がこんなに寝坊しなきゃ、ちゃんと初仕事もこなせていただろうによ」
 どうやら少女サンタクロースはひどく寝坊したがために、クリスマスに乗り遅れたらしかった。トナカイの言葉を聞いて、サンタクロースの眠りは深いんだろうか、野生動物が冬眠するように、サンタクロースもクリスマス以外の時期は眠っているのだろうかと不思議に思いながらも、ぼくはなんだかおかしな気持ちになった。
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