短編

□季節はずれの
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「なぁにその顔! おっかしー! 初めて本物のサンタさんに出会ってびっくりした? あはは、だからってその間抜け顔、ないわー」
「サ、サンタ……?」
 本物? と問えば当たり前でしょー、と笑いながら返された。この子がひとりでこんなに騒いでいるのに、人っ子ひとり通らないのが不思議だ。住宅街なのに家のなかから誰かが出てくる気配がない。どういうことだ。しかしとりあえず、この子がサンタクロースであろうとなかろうと、いや、サンタクロースであるならなおさら、ぼくは一番重要な問いをこの女の子にしなくてはならないだろう。こういうときでも結構冷静なんだなぁ、自分。
「もし仮に君が本物のサンタだとして」
「本物よっ!! 」
 女の子、もといサンタクロースはいきなり笑いを止めて大声で叫んだ。
「わ、わかった。サンタなんだね。そう、サンタ 」
 自分でも無意味な繰り返しだとは思ったが、せずにはいられなかった。女の子は先程とは打って変わって不機嫌そうな顔でこちらを睨んでくる。その剣幕といったら、男のぼくのほうが気圧されているくらいだ。しかしここで怯むわけにはいかない。ぼくは両手に力を込めて口を開いた。
「ぼくが聞きたいのは……、サンタクロースの君が、何故、今、ここにいるのかってこと」
 するとサンタクロースは、はぁ? というような顔をした。
「何お間抜けなこと言ってんのよ。子どもたちにプレゼントを配るために決まってんでしょーが。一体世間に子どもが何人いると思ってんのよ。朝から晩まで配んなきゃプレゼントみんなに配れないっつーの」
 ……ああ、いや。
「そういうことじゃなくて……」
「別に昼間にサンタがいたって悪いこたないでしょ」
 どうやら女の子は、何故昼間にサンタクロースが街中にいるのか、ということをぼくが疑問に思っているととったようだった。会話が噛み合わない。そもそもサンタクロースがこうして現実にいるということ自体が非現実的なんだけれども、今はそこはおいておくしかないだろう。
「そういうことじゃなくて、どうして今この時期にサンタがいるのかってことを、ぼくは君に聞いているんだよ」
「この時期? 」
 サンタクロースは、そんなの決まってんでしょ、と人をばかにしたように鼻で笑った。
「今日がクリスマス・イヴだからよ!! 」
「違うんですけど」
「え」
 ぼくの言葉に女の子が固まった。
「クリスマスなんて、もう随分と昔に過ぎ去ったよ。周りみてごらんよ。どこもクリスマスの飾りつけなんてしてなかっただろ」
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